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嫌いなところ
「あなたのそういう所が嫌いなのよ。」
私は、テーブルを挟んだ目の前の男に、静かにそう伝えた。外から吹き込んでくる風が、白いカーテンを揺らす。珈琲を片手に新聞を読む男は、こちらに少し視線をおくるだけ。私の言葉なんて届いていないかのような反応だ。
あぁ、こういう素っ気ない所も嫌いだ。
目の前にいる男は、私の旦那だ。素っ気なくて、無反応な男が私の旦那だ。付き合いたての頃は、眉間にシワなんて寄っていなかったのに。今ではいつでも不機嫌で、顔をしかめている。
私はいつまでも無視をし続ける旦那をキッと睨みつけ、椅子から立ち上がり、台所に置いてあった角砂糖の袋を手に取る。そのまま乱暴に角砂糖を鷲掴みすると、彼が持っている珈琲にありったけ放り込んだ。その拍子に、珈琲が彼のシャツに飛び散る。
さすがに私の行動に驚いたのか、珈琲と新聞を机に置き、私と視線を合わせた後、直ぐにため息をついた。
「なによ、なにか文句あるの?」
「……別に。」
旦那は私の行動に少しは反応したものの、何も言い返すつもりはないらしい。これじゃ、私が悪者みたいじゃないか。なんでいつも何も返さないのよ。私はまた、彼に対して不満を募らせる。思えば、彼の嫌いなところは一つや二つなんかじゃない。沢山あるのだ。
例えば、朝ごはんを食べないところ。綺麗好きすぎるところ。お笑い番組を見ても笑わないところ。私のせんべいを勝手に食べるところ。思い返せば、思い返すだけ、沢山出てくる。次から次へとわいてくる、フツフツとした感情。それを抑えるために、ぐっと拳を握る。小さく息を吐き、冷静になる。そんな様子を黙って見ていた旦那が、やっと口を開いた。
「大丈夫か。」
たった一言。旦那は眉間にシワも寄せずに、無表情のままそういった。思わぬ言動に私は「は?」という声すら出なかった。
そんな私に構わず旦那は続ける。
「……生理だろ。」
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