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転移した私は闇の中にいた。
何処を見渡しても先の見えない黒が広がる場所。そこに、雪豹の体だけが薄らと浮かび上がっている。
「黒」
「何だい? 白」
「今何処にいる?」
「何処にもいないよ」
「そう」
闇と会話する。空間の全てから声が聞こえる。
「使い魔になったんだ」
揺れる銀の耳飾りを確認したのか、聞いてきた。
「そう。奴隷に落ちたの」
「楽しい?」
「まあまあかな」
「ふーん」と不満げな声が響く。「まあまあなら辞めちゃえばいいのに」と。
「辞めたい時は辞めるよ。奴隷が革命を起こすのは珍しくないからね」
「へぇ」
途端に楽しそうな声になった。そのまま問いかけてくる。
「で? 俺は何をしたらいい?」
闇が体に纒わり付く。尾で軽く払った。
「私は今、勇者の奴隷で巻き込まれ君の味方」
「それで?」
「黒には魔王を見てもらう」
「ほう」
愉快そうな声が反響する。
「後は好きにして」
「わかった。お互い楽しく可笑しく」
「愉快に遊びましょう」
いつの間にか前に立つ、私と同じ仮の姿。
黒に染まる豹が揺らりと消えた。
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