私の歌姫

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 胡散臭いな。  私は薄汚れた茶色の建物を見上げる。  近代的な建物が建つ中、そこだけが古ぼけて見えた。窓はなぜか黒くて、中が見えなかった。  本当にここか?  私は手元の紙を見つめる。  間違ってない…  私はため息をつくと建物の中に入った。  この国に出張することがわかり、何気なくパトリックに話したら、支社の社長に渡してほしいものがあると、紙袋を渡された。  面倒だと思って断ろうと思ったら、その彼女のミヒロちゃんに頭を下げられた。  妹のような可愛い笑顔に思わずわかったと頷いてしまった。  彼らと会ったのは半年前だ。  初めは怖がっていたミヒロちゃんも最近は私になついてくれたらしく、よく連絡をくれる。  しかし、パトリックはそれが嫌いというか、嫉妬するらしく、ミヒロちゃんから電話がくると奴からも連絡が必ず入る。  面白い男だ、からかうのが面白くてわざとミヒロちゃんに連絡をとったりしている。  奴はクールを装った面白い男だ。  アニメ好きという点を覗けば気が合う。  どうやら渡された紙袋には私が苦手なものが入っているようだった。  支社の社長もおかしな奴だと聞いている。  どんな面白い奴が楽しみだな。  私がそんなことを考えているとチンと音がして、エレベーターが止まる。  確か右手の一番端の530号室って言ってたな。  私は妙な音がするエレベーターから降りると、表札を確認しながら廊下を歩く。静まり返った建物だった。白いドアだけが廊下に見える。  本当おかしな場所だ。  パトリックとミヒロちゃんはこんなことに勤めていたのか。  信じられんな。  『Tan Tan Travel Agency』の表札が見え、私は一息つくとノックをする。 ドアベルとかインターフォンがないことが驚きだった。 「はーい?」  そう声がして褐色の髪の日本人女性が顔を出す。  いつもの癖で私はじっと顔を見てしまう。  女性は私の視線にむっとした表情を見せる。  怒った顔がなんだかそそる感じだな。  私はそんなことを思いながらも営業スマイルと浮かべた。 「すみません。私はパトリックの友人の伍アキオです。館林社長を訪ねてきたのですが……」 「パトリック?ああ、聞いてる、聞いてる。鈴木、怪しい奴じゃなさそうだ。中に入ってもらえ」  中からそう声が聞こえ、鈴木と呼ばれた女性はじろっと私を見た後、ドアを全開にする。 「どうぞ」  中に入ると一番端の机に小麦色の肌の30歳過ぎの男が見えた。もてそうな顔で少し自信過剰にも見える笑顔を私に向けていた。 「伍さん、悪かったですね。こんなところまで来てもらって」  男、多分館林と思われる男は笑顔を浮かべたまま、私に近づいてきた。 「いえいえ。パトリックはいい友人なので。長三山さんもよろしくと言ってましたよ」 「ああ。長三山?あの子も元気にしてるんですね?」 「ええ」   私は館林ににっこりと笑顔を向けながらうなずいた。
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