14、魔界のもの

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『山田隆司だ。会社勤めが嫌になって、かんたんにかせげる道を選んだ・・・』  山田隆司は、勤め帰りに雷雨に打たれた濡れ鼠のような容貌だ。邪霊だった。  ラーメン、好きか?大っきいチャーシューがのったやつだ。 『ああ、大好きだ。うまいラーメンを食わねば悔いが残る・・・』  他人のブタ肉を奪うんじゃなくて、まともに働いて、働きの見返りにラーメンを食うほうがうまいぞ。この店の他にも、うまいラーメン店はたくさんある・・・。オレは豚珍館のメニューを見せた。 『さっき、お前を見ていてそう思った。だが、無理だ。俺たちはブタ肉を奪う見返りに、とんとんラーメンの客に取り憑いて食うのを許されてるだけだ・・・』  お前の心だ。お前の心は、他の存在の命令で変るんじゃないだろう。  まともに働いて、いろんなラーメンを食えばいいさ。お前が変りたいと思えば変れる。 『そんなことをしたら、ボスに殺される・・・』  もう、死んでるだろう。知らないのか? 『そうだったな・・・。だけど、死んでるなら俺だけではラーメンを食えないだろう?』  オレの爺ちゃんは死んでるけど、ちゃんと食ってるぜ。もう、存在自体が心だけなんだから、心がけ次第さ。 『そうか。とんとんラーメン店みたいに、他の店の客に憑いていいんだな』  そうじゃない。人のために働け。そうすれば、その人から感謝されて、ともに味わえるはずだ。 『取り憑くのとおなじだろう』  人のためになるように、自分の自由な心で動くんだ。そうなりたくないのか。もっと他のいろいろな心を知れるぞ。 『なれるなら、なってみたい。自由にしてくれるか。こいつら俺の部下だ。コイツらもいっしょに頼む』  山田隆司はまわりにいるスーツの黒い影たちを示した。みな邪霊だ。  わかった。待っていろ・・・。  オレはミズハさんを呼んだ。さっき、顔を洗ったときオレの心に現れたから、今、もっともオレの心に現れやすいはずだ。  ミズハさん。こういってるから、この者たちをお祓いしてあげてください。魔界から救ってください。  唐衣裳装束の色白でロングヘアーのかわいいミズハさんがきびしい表情で現れた。 『まったくあなたって人は、関心を持たなければ立ち去る、という忠告を聞いていないのですか。あなたのしていることは須佐之男神の仕事ですよ。  あなたから、神々にお願いしなさい』  だが、目はほほんでいる。
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