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テレビを見ている妹の耀子がつぶやく。耀子は中一。奈都と幸と佳子とオレは中三だ。
「豚珍館も大変だね・・・」
いつもオレの家族が食事にゆく豚珍館の肉類は、すべて佳子の家の青井養豚場の製品だ。
「そんなこたあねえって、父ちゃんがいってたさ。
豚珍館におろしてる肉は、農林水産大臣賞を取った血統書付きの系統の肉だ。
放牧の他に、水泳もするんだぜ。最近は・・・」
佳子が青井養豚場のブタの日常生活を説明する。
日中は室内運動場で動きまわり、夕方水浴びして、夜は豚舎にもどって就寝するという。
まるで、小さいときのオレだな・・・。
オレがそう思っていると佳子がいう。
「だから、リンゴブタだろうがモチブタだろうが、うちの放牧ブタにかなうもんはいねえって」
確かに佳子が説明するように、豚珍館のチャーシューは脂身が少なく、肉質がしまっていて、食べごたえがある。
豚珍館の原田さんも、
「青井養豚場の豚肉は、肉質がしっかりしていて適度な脂肪があるから、チャーシューだけでなく、他の肉料理でも調理崩れしないしとても美味しい。豚骨からはとても良いスープができる」
といっていた。
これだけ評判の高いブタ肉なのだから、市場が他の地で生産されたブタ肉にとって代わられることないだろう。
「ほんとにそうかな・・・」
ユウコ姉ちゃんが心配そうにいう。ユウコ姉ちゃんは小沢優子。オレと耀子が幼いとき、お守りをしてくれた我家の近所の姉ちゃんだ。現在大学生四年。幸と奈都とともに巫女修行している。中肉中背の均整のとれた体型で色白、長い髪、大きな目をしている。これだけ聞けば、誰もが可愛いと想像する。実物のユウコ姉ちゃんは、期待を裏切らないほど可愛い。
あれっ、ユウコ姉ちゃんの何かが変化してる・・・。
オレがそう思ってると、うちの猿田比古神社の祭神でオレが爺ちゃんと呼んでいる、オレの守護神の猿田比古神さんが心に現れた。
『サスケ。よく見るのじゃ。ユウコ姉ちゃんの心に何がありおる?』
ユウコ姉ちゃんの心をよく見ろという。オレは座卓に向って座っているユウコ姉ちゃんの心に、オレの心をむけた。
オレの心は、最初はぼんやりしていたが、なんだろうと思う自分を捨てたら、心に丸い物が浮んだ。これはいったい何だ・・・。
オレはいつもの定位置、居間の隅で頬杖ついて横になっていた。起きあがってユウコ姉ちゃんのそばへ行って確かめようと思ったら、オレの身体は動かず、心だけがユウコ姉ちゃんのそばへ漂っていった。
これでは、浮遊霊だと思って勘違いした、はじめて爺ちゃんを感じたときと同じだ。
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