14、魔界のもの

8/9
49人が本棚に入れています
本棚に追加
/91ページ
 わかりました。祈ります。 『心をこめて祈りなさい。さすれば、フツシさんにわかってもらえますよ』  ミズハさんは笑顔でオレの心から消えた。フツシは須佐之男神さんの生前の名だ。オレの先祖で中沢の開祖が建御名方刃美神さんで、その建御名方刃美神さんの祖父が須佐之男神さんだ。  祓殿には神殿の方向に設けられた祭壇がある。オレは祭壇にむかって端座し、山田隆司たちのことを思って須佐之男神さんに祈った。 『これからは、事を成すとき、事前に相談するのだぞ』  優しい言い方だが、あやまちは二度と許さないとする断固とした心が、オレの心に現れた。  わかりました。必ず相談するよ・・・。オレは決意を示した。  オレの心の世界に、須佐之男神さんが、古代の短甲、冑、頸鎧、肩鎧、籠手(こて)草摺(くさずり)臑当(すねあて)をまとって剣をかざした姿となって現れた。あっというまにオレの心は須佐之男神さんに同調し、オレは須佐之男神になっていた。 『山田隆司。誰の配下だ?』  須佐之男神のオレは、山田隆司を問いただした。 『破端霊(はたれ)のオロチだ。俺たちをオロチの組織から抜けさせてくれ』 『抜けたら、なにをする』 『うまいラーメンを食いたいから、ラーメン店を守りたい』 『その心に偽りはないな』 『俺たちは、ブタ肉を奪えば、ラーメン界を独占できるといわれてオロチの組織に入った。  だが、オロチのラーメンより、うまいラーメンがあるのを知った。うまいブタ肉があるのを知った。事実を知ったからここには留まれない。  うまいラーメンを食いたいから、多くのラーメン店を守りたい』 『よかろう。その言葉忘れるな。忘れたときは、お前たちを消滅する。それでよいか?』 『そうしてくれ!』 『さすれば、無上霊宝神道加持!無上霊宝神道加持!無上霊宝神道加持!』  九字とともに、オレは魔除けの剣・十握の剣で山田隆司たちをまとめて三度両断した。  黒い影のようだった山田隆司たちのスーツ姿が、一瞬に真新しいスーツの姿に変った。顔色もよく、どこかで見たような雰囲気を漂わせている。 『身体が軽くなった。なんでもできそうな気がする。我々を指導してくれ』 『よかろう。私について参れ』  同調していた須佐之男神の心がオレの心から分離して、父ちゃんの知人の弁護士、須賀布津士(すがふつし)に変身した。  こういうのは変だ。須佐之男神さんは須賀布津士弁護士の心と同調し、山田隆司たちを引き連れてその場から消えた。  これにて一件落着と思ってホットしたら、祓殿にスーツ姿が一人残っていた。
/91ページ

最初のコメントを投稿しよう!