1、ラーメン大好き、辺津鏡

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1、ラーメン大好き、辺津鏡

 我が猿田比古神社(さるたひこじんじゃ)はR市本町一丁目にある。欅や椚にかこまれた境内の猿田比古神社と別棟に、我が中沢家がある。  七月末の日曜。  午前中。猿田比古神社は祭事がない。朝飯のあと、オレはいつもの定位置、十二畳の居間の隅で頬杖をついて横になり、テレビを見ていた。  朝からテレビで、とんとんラーメンチェーン店が北関東に勢力を伸ばしているとCMが流れている。どのチャンネルも同じCMだ。大々的にCMを流している。  とんとんラーメンの発祥地は長野県の北部だ。豊かな自然とうまい水、そしてリンゴで飼育されたブタは、独特なこくのある臭みのない肉質だと報じている。  CMを見ていたオレは、飼育されているブタの特徴が気になった。 養豚場は無菌状態で管理され清潔そのものだが、何かが妙に気になる。 「クソッ。なんでこんなコマーシャルすんだ?まだ、朝飯食ったばっかだべ。それに、佳子んちに、喧嘩ふっかけよっていうんか?」  居間の座卓で、オレの幼なじみの巫女修行している青井幸が、妙な理屈をこねてわめいている。佳子というのは、幸の従姉妹で、幸と同い歳だ。佳子の家は青井養豚場を経営している。 「あたしんちの子は、おいしいよ。  どこへ出してもひけはとらねえって父ちゃんがいってた」  佳子が妙な仕草で父親まねて、啖呵を切った。  佳子は言葉づかいだけをのぞけば、チンコロ姉ちゃんの幸とちがって容姿端麗だ。 「ねえ、ヨッちゃん。ブタの味はどうしてちがうの?」  幸といっしょに巫女修行している、これまたオレの幼なじみの安藤奈都がふしぎそうに訊いている。居間の話し声は、ダイニングキッチンから響いてくる母ちゃんたちの大声でよく聞きとれない。  ダイニングキッチンで、ユウコ姉ちゃんと幸と奈都と佳子の母親たちが母ちゃんとラーメンについて話しあっている。今日の話題はオレたちと同じで、チャーシューの肉質だ。  青井養豚場は飼育から肉の生産加工、商品化、販売まで一貫生産している総合企業だ。養豚場は無菌状態で管理され清潔そのものだ。 「母ちゃんたちがうるさくって、ろくに聞えねえな・・・。  食い物で肉の味がかわるんさ。トウモロコシが多けりゃコーン味さ。米が多けりゃ餅だな。だけんど、果物なんて食わせてねっから、わかんねえけど、リンゴ食わせたら、リンゴみてえな肉になるんだベな・・・」  佳子の言葉に目を細めた幸の頬が緩んだ。こくりと生唾を飲んでいる。ふっくらした頬に笑みが浮んでいる 「ブー子、かわいそうだね・・・」  奈都が佳子の愛豚の名をいった。 「ブッブー。  ブー子はミニブタだベ。子ブタと同じおっきさのまんまだべ。食われねえよ」  佳子はアハハッと笑いながら、長い脚をばたつかせ、手を叩いて笑ってる。
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