2、ブタが消えた

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2、ブタが消えた

 幸の従姉妹の佳子は、サスケたちが住むR市の、はずれに住んでいる。  青井養豚場もここにある。  まわりは、北関東の名山赤城山の裾野にひろがる丘陵地で、青井養豚場だけでなく養豚場や牛や馬の牧場が多い。  月曜午前(佳子が中沢家をだずねた翌日の午前)。 「青井さん。ちょっと話があるんだ。いいかな?」  青井養豚場から一キロメートルほどはなれた丘陵地で養豚場を営む小林郁夫が、青井養豚場の事務所を訪ねた。 「ああ、座ってくれ。茶をいれる。何かあったか?」  佳子の父は事務所のソファーを勧め、事務員にお茶をいれさせた。  事務員がテーブルにお茶を置いて事務作業にもどると、小林は佳子の父に訊いた。 「なあ、青井さん。ブタがいなくなったりしてねえか?」 「ブタがいなくなったんか?日に一度は数を確かめるだろう?」  佳子の父は小林に、飼育豚を管理している事務所のパソコンを示した。  何頭ものブタがいる養豚場から数頭が消えてもすぐにはわからない。  しかし、どのブタも耳にICタグをつけてある。ブタのIDだ。ICタグはブタが必ず行く餌場や水飲み場など、豚舎の各所にあるセンサーで読みとられる。  一日以内に、どのブタがいなくなったか判明するが、仮にどこかへ行ったなら、その行き先まではわからない。 「ブタは、月末の集計の時、確かにいたんだ。  だけど、昨日の夕方の集計で、三頭いなくなったのに気づいた。  青井さんと同じセキュリティーだ。  ブタが勝手にドアをあけて豚舎から出てゆくなんてこたあねえ。  誰かが豚舎に入った記録もねえし、監視カメラの映像にぬけてる部分もねえ。  豚舎の中で、突然、ブタが蒸発して消えたとしか思えねえ・・・」  小林はお茶に手もつけず、そう説明した。 「武田さん。今すぐブタの全頭チェックだ。確認してくれ」  佳子の父はその場で、事務員の武田芙美に飼育ブタをチェックさせた。 「全頭いますけど、何かあるんですか?」 「小林さんとこでブタが三頭消えたと言うから、気になってな・・・」  佳子の父は妙だと思った。小林養豚場も青井養豚場と同じで、外部から完全に遮断された施設だ。小林郁夫の説明にまちがいがあるとは思えない。 「青井さん。どうしたらいいと思う?」  小林はどうしたらいいか判断つきかねている。 「とりあえず警察へ連絡したほうがいい。小林さんとこだけの問題じゃない。  ほかに被害が出るかもしれない・・・。  ここから電話すればいい」  佳子の父はその場で小林に電話させた。
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