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覗いた時に、妙に赤い花が多い店だなとは思っていたが、店内にも全く赤以外の花がないのだ。
そういうコンセプトの店なのだろうか?
「用途を教えていただければ見繕いますよ。花束ですか?一輪ですか?」
質問に答える気はないようだ。
まあいいか。
変わっていても花屋には違いないし何より嫁がご所望なのだから。
「女性にプレゼントする花が欲しいんです。」
「へえ。奥様にですか?」
「ええ。嫁が花が欲しいと…え?」
俺、嫁になんて言ったか?
結婚指輪をつけていればわかるかもしれないが嫁が死んでから指輪ははずしている。
「あの、俺が既婚者だって言いましたっけ?」
「いいえ?なんとなくそう思っただけです。」
店員はにこにこと笑うだけだった。
幽霊をポケットに入れている俺が言うのもなんだが、なんだかこの店員も店も浮世離れしている。
さっさと花を買って出よう。
「小さい花束を見繕ってもらっていいですか?」
「かしこまりました。」
店員は手早くバラを数本包んだ。
「おいくらですか?」
「もう頂きました。」
「え?」
財布を出した俺を店員が制止した。
不思議そう、というより不審げな俺の顔を意に介さず店員は言った。
「ありがとうございました。」
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