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「つっかれたー…。」
半ば追い出されるように店を後にし帰宅すると、昨日に増してどっと疲れが出た。
「あ、そうだ。花を花瓶に移さないとな。」
でもその前に。
「はい、どうぞ。」
ポケットから取り出したスマホは電源が切れていた。
やばい充電切れだ。
割とかっこつけただけに恥ずかしい。
慌てて充電器に繋ぎ起動させる。
程なくして画面が明るくなり、いかにも不機嫌そうな嫁の顔が映った。
「気付くのが遅い!」
「ごめんごめん!」
どおりで途中から静かだったわけだ。
一日中画面つけているのは当然だが燃費が悪い。
これからは携帯充電器を持ち歩こう。
「ん?何その花?」
「ああ、これは…。」
いざ渡すとなるとなんか気恥ずかしい。
さっき一回不発だったのもでかい。
これで反応が悪かったら…いや、花屋をあんな顔で見つめていたんだ。
不発ということはあるまい。そうだ、ないない絶対ない。
「1人でぶつぶつ何言ってるの?念仏?」
「今のお前にとっては滅びの呪文だな。」
デジタルデバイスの幽霊に念仏が効くかは不明だが。
「嫁をもう一回死なせる気!?」
「いやそもそも唱えてないし…。」
困惑と呆れでため息がでた。
そういえば嫁のマイペース加減は最早お墨付きだった。
今更出し惜しみしたところで結果は読めないんだ。
覚悟を決めろ俺。
「はい、どうぞ。」
半ばヤケクソ気味に花を差し出した。
「へ?」
「花、欲しがってただろ?」
嫁はきょとんとしながら薔薇を見つめている。
あれ?やっぱこれ不発?
怖くて嫁の顔が見れない。
思わず顔が目をそらした。
「俺の勘違いだったら気にしないでくれ。ただの自己満足だと思ってくれれば…。」
「ありがと。」
「え?」
今、ありがとうって言った?
恐る恐る視線を戻すと、本当に喜んでる?無理してない?と心配になるほどしおらしい嫁がいた。
「む、無理しなくていいからな?」
色々声をかけてみたが嫁はひたすらもじもじするだけで始終無言だった。
も、もしかして…。
「トイレでも行きたいのか?」
「ちがうわ!」
「ごめんなさい!」
ちょくちょく忘れそうになるが嫁は死んでるんだ。
トイレに行きたいわけないよな…。
「そうじゃなくて…嬉しかったの。」
「そ、そうなのか?」
全然嬉しそうに見えないんだが…。
「花をもらったのなんて初めてだったから嬉しくて、でもなんかすっごく恥ずかしくてどんな顔していいかわからなかっただけ!」
たしかに言われてみれば心なしか顔は赤いし言動を振り返ればツンデレに思えなくもない。
俺の嫁はツンデレ属性も持ってたみたいです。
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