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「気がすんだ?」
「あ、ああ。」
「じゃあ帰るからね。」
ため息交じりにぶちぶち文句を言いながら嫁は帰り支度を始めたようだ。
なぜあるのかは全くわからないが画面の中に存在するブラウン管テレビの電源をつけている。
「まさかとは思うけどそこから帰るの……?」
「そうだけど?」
いやそんな当然でしょみたいな顔されても。
「なんかよくわからないが、呼び出して悪かったな。あっちでも元気にやれよ。」
死んでるのに元気も何もないけど、かけられる言葉はそれだけだった。
「あなたもね。じゃあね。」
嫁の体がみるみるうちにテレビに映る井戸へ消えていく。
え?なに、俺の嫁井戸に引っ越したの?
それともあれが四次元井戸なの?
天国に通じちゃってるの?
ツッコみたいことは山のようにあるがまあいい。
今は彼女の冥福をお祈りするだけだ。
なんだか寂しさを感じるが致し方ない。
だって彼女はもう死んでいるんだから。
ああ、もう体が半分以上隠れてしまって……。
「……。」
「……。」
おかしい。
さっきまで順調に隠れていってた嫁の体が動かない。
バグだろうか?
「お、おい!大丈夫か…?何か問題でも……。」
「……ねえ。」
よいしょ、と嫁が井戸から出てこちらへ近づいてくる。
表情は俯いているのでよくわからないが何か気迫を感じる。
「もしかして怒ってる……?」
怒る要素あった?
あ、呼び出したからか。
でも謝ったしさっきまで普通に帰ろうとしてたよな……?
「寂しいとか思った?」
上げた顔は、初めて見る表情だった。
微かに目が潤んでいるようにも見える。
まさか、嫁も寂しいって思ったのか……?
「ああ、寂しいよ。本当に。」
正直に答えると、げんなりとした顔で嫁は言い放った。
「あなたのせいで帰れなくなっちゃったじゃないの!!」
「ええ!?」
「利用規約ちゃんと読んだ!?」
「規約?」
そういえばそんなのスキップしてしまって読んでない。
すごい剣幕におされながらも規約を読みなおす。
「……未練を晴らさないと帰れません、だって。」
「嘘でしょおおおお!?」
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