1人が本棚に入れています
本棚に追加
綺麗、という凡庸な言葉では形容できないほどの女性だった。
ベレペルソナに現れたのは赤いピンヒールを履きこなした生足の、ミニスカートが似合う女性だった。遥と啓太は思わず何度も彼女を見つめた。遠くから観察するに堪える人だった。ベレペルソナとはフランス語で美しい人という意味だが、赤いピンヒールの彼女はまさにベレペルソナだった。超がつくほど美人の女性。
紅色のマフラーに黒のニット、ミニスカートに生足を惜しげも無くさらし足元は10センチはあろうかというピンヒールだった。色は赤。黒と赤のコントラストがド派手で否が応でも人目をひく。
「この寒いのに生足か。」
遥が呟いた。
「いらっしゃいませ。」
啓太は愛想よく言う。
女性はとても柔らかく微笑んでただ、目が笑っていなかった。かなり強烈なタバコの香りをさせながらカーディガンを赤と黒の両方手に取った。
「どっちが似合うと思います?」
それはよくありがちな一番難しい質問だ。彼氏が彼女から問われた時に決してしてはいけない過ちに似ている。こっちのほうがいいと言ってもそれが彼女の求めている答えと合致しなければ勧めたのとは反対の物を買われたなんてことになる。彼氏への評価もだだ下がりだ。
この手の女心は、AとBについて、どちらが本人により一層輝きを与えるか理由をつけて300字以内で答えよ。と現代文の小論文テストを受けている気持ちにさせられる。
啓太はしばし逡巡した。
「一度、試着してみてはいかがでしょうか?お時間ありますか?」
「そうね、そうするわ。」
カーテンの向こうに消えていった彼女を見守り、啓太はカウンターに戻ってきた。遥がすぐに飛んできた。
カーテンの裏から現れた彼女は美しかった。どの色もぴったりと着こなせる美貌の持ち主なのに、厚塗りメイクのせいで少し台無しに
なっている感がある。
最初のコメントを投稿しよう!