出会い

5/5
前へ
/5ページ
次へ
昔からそうだったわけじゃない。むしろセイラは赤い色が嫌いだった。 小学校6年で生理が始まり自分から出た嫌な匂いのする真っ赤な経血に嫌悪感を覚えたのだった。納豆を腐らせてさらにチーズを混ぜ、何日も放置した上に更に蒸したような匂いに嫌気がさした。中学に上がると、クラスにリストカットする子がいて、生々しい赤い傷を見せびらかし私は、こんなに辛いんだよとアピールしてくるのにも嫌気がさした。だから赤は嫌いだった。 大人になったセイラは普通に就職し、順風満帆な人生を送っていた。そのまま寿退社し孫に囲まれた幸せな老後を送るんだろうなと考えていた。セイラの人生プランが狂ったのは会社のある上司との出会いだった。 酒井と言った。セイラを気に入って何かと世話してくれたのでセイラも好意を抱いていた。しかし、酒井は不純な人だった。妻子がいながら、別れるからと約束してセイラにいいよってきたのだ。 セイラは拒めなかった。 あとは文字通り人生坂道を転がり落ちていく。妻にばれ、慰謝料を請求され酒井はセイラを捨てて家庭に戻っていった。残されたのは傷ついて職場も友達も失い家族からも距離をおかれた1人のちっぽけな女だ。 セイラは気分を紛らすためにホストにハマっていった。セイラが悪い男に向かうのは、蝶が香りのいい花に吸い寄せられる本能に似ていた。香りだけは良いがその本体には毒があり、甘い蜜は得られない。上部だけ好きと言われて所詮は金づるなのだ。ホストの男の目鼻立ちは、不倫の上司にどこか面影が似ていた。そして同じ目つきをしていた。女の子を騙して自分だけ得をしようというどこまでも優しい詐欺師の目だ。セイラは最初こそ自分が楽しんでいたが、メッキが剥がれるのはおそくなかった。ホストは、セイラが嫌いだった色、真っ赤なバラの花束を誕生日に抱えてきた。そして15万のジミーチュウのピンヒールをプレゼントした。 セイラは感動してしまった。それが間違いだ。
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加