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2.崖崩れに巻き込まれた一家
「今回の依頼もうまくいってよかったぜ……」
とある世界のとある自然豊かな道を走る馬車。その中に傷口に薬草を塗っている狼獣人がいた。
この世界には人間はおらず、かわりに知性、技術、器用さが人間並みの獣、獣人がいる。
人間にケモ耳や尻尾を付けたタイプではなく、獣が立ってる……そんなタイプだ。
あと、漫画やゲームに出てくるようなモンスターも存在している。エンカウントすれば倒す……ことはあまりなく、依頼があれば退治に向かうのだ。
この世界では、あちこちにギルドが存在し、人々が何か困れば報酬を用意してギルドに依頼をする。
依頼内容は様々で、モンスター退治もあれば、家の掃除の手伝いもあったりする。
今回、彼が受けたのはモンスターの討伐だった。
腰には彼が使う剣がある。
「なんだい、兄ちゃん?モンスターの討伐かい?」
馬車の主のおじさん……馬の獣人が話しかけてきた。
馬車といっても、荷台を引っ張っているのは普通の馬だ。獣人ではない。 この世界にも、人間の世界と同じような動物は存在している。
もちろん家畜もいて、肉も家畜からである。
「ああ……スライム退治なんだが、数が多過ぎて骨だったぜ……」
「ハッハッハ。それはご苦労だったな!」
肩を鳴らす狼獣人に対して、馬獣人は笑っていた。
そんな時、地響きが起きて馬車が急停止する。
狼獣人は急停止したショックでバランスを崩し、床に頭をぶつけた。
「いつつ……な、なんだ……?」
起き上がってキョロキョロすると、岩壁のほうで土煙が上がっていた。
狼獣人はすぐさま馬車から飛び出す。
「ちょっと見てくる!すまないがここで待っててくれ。」
「ああ、気をつけるんだぞ」
狼獣人は走って現場へ向かう。
現場では、崖崩れがあった。
範囲は大きくはないが、人為的にやられたわけではなさそうだ。
「とくに被害者はいなさそう……!?」
辺りを確認し、崖崩れに巻き込まれた被害者はいないと思ったその時……彼は発見した。岩からわずかに出ている手を。
岩をどかしていく。崩れないように、慎重に。
現れたのは、まだ子供の白い……狐の獣人だった。
生死を確認すると、呼吸は浅いが、まだ生きていた。
とりあえずホッとし、少年を近くの木の下に移動させ、子供が一人でここにいるのを不審に思い、再び岩をどかし始めた。
最終的に出てきたのは白い狐の獣人の男性と女性で、どちらも息をしておらず、呼吸も停止していて、生きてはいなかった。
彼は穴を掘り、その穴に二人の獣人の亡骸を入れ、埋めて簡単な墓を作った。
おそらくは、少年の父親と母親だろう。服装や荷物から察するに、ピクニックかハイキングで上の崖側を通った際に足場が崩れ、落ちたのだろうと、彼は思った。
両手を合わせて供養を終えた彼は少年を抱え、急いで馬車へ戻る。
「ど、どうしたんだ、その子供は!?」
「おっさん!急いで街へ頼む!」
急いで馬車へ乗り込み、察したおじさんは街へ急いだ。
しばらくして街へ着き、彼はギルドへ走る。
この街には病院はない。小さな医院はあるが、怪我の治療はやってなく、風邪や病気の診察を診るだけだ。
彼が所属するギルドは街の中央区にある。
近道をするため、細道や公園を通り、ギルドへと向かう。
そして、ギルドへと辿り着き、脚で扉を開ける。
「おい、シーナ!シーナはいるか!」
「なんですか?ヴァン……そんなに大声出さなくても……」
医務室とプレートが貼られた手前の扉から、猫の獣人が現れた。
「こいつを治してやってくれ!」
彼は医務室へ入り、ベッドに少年を寝かす。
少年を見るなり、シーナは驚いた。
なにせ、服がボロボロで体も傷だらけなうえ、呼吸も荒いからだ。
「ど、どうしたんですか!?この子、酷い怪我を……」
「訳は後で話す!まずは治してやってくれ!」
「そ、そうですね。では……」
シーナが手を前に出すと、少年が優しい光に包まれた。
この世界には魔法も存在する。
相手を攻撃する攻撃魔法、付加で攻撃力や防御力といった能力値を上げる補助魔法、怪我を治癒する回復魔法……他にもいろいろある。
彼女が得意としているのは回復魔法のヒーリングだ。
少年の傷が癒えていき、呼吸も安定して静かに寝息をたてていた。
「これで大丈夫です。しばらくすれば目を覚ますはずです。」
「そうか……よかった……」
助かったことに安心して、ドカッと椅子に座り込んで深い息を吐いたヴァン。
「で、この子はどこから拉致ってきたのですか?」
「拉致ってねぇよ!?」
突然のシーナの言葉に、ヴァンは驚くも帰り道の出来事を話した。
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