3.ギルドマスター

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3.ギルドマスター

 ヴァンが仕事の帰りに地響きが起き、行ってみると崖崩れがあった事。その崖崩れに子供がいた事。生きてるのを確認した後、崖崩れを処理すると、死んでしまっていた夫婦らしき狐獣人が出てきて供養した事。全てを話した。  子供の治療のために先に連れ帰るべきだったろうが、その間に再び崖崩れが起きては捜索が困難になる上に、夫婦の体は最悪原型を留めていないモザイク必須の状態になってしまう恐れがある。それでは夫婦も浮かばれなかっただろう。  「なるほどね、あなたの行動は正しいと思います。けど……」  「なんだよ?」  「こんな子供をお持ち帰りしちゃうのはどうかと思いますよ?」  「言い方!!てか、見て見ぬふりをしろと?」  ヴァンの驚きとツッコミに 、シーナはクスクスと笑い出した。  「冗談ですよ。そんな犯罪行為、ギルドの者がすることではないですから。……まぁ、もっとも……」  クルリと後ろを向き、チラッとヴァンを見るシーナ。  「あなたならやりかねないでしょうね」  「おい!?」  もちろん、これもシーナの冗談。  彼女は、こうやってヴァンをからかうのが好きなのだ。  とはいえ、今はからかっている場合ではないのだけれども。  「さて、冗談はさておき、この子はどうしましょうか。預かってくれる施設まで、ここからだと近くても一日はかかりますし……」  「ああ、マスターと相談するにしても、この子の親戚がいるかもわからない。とりあえず、マスターに報告してくるからその子を見ててくれ」  そう言って、ヴァンは部屋をあとにする。  マスターとはもちろんギルドマスターのことで、依頼の指示は主にギルドマスターの仕事だ。  送られてきた依頼はマスターが確認し、内容のランクによってギルドの獣人に指示をしていくのだ。  ランクはS~Eランクまである。ギルドメンバーのランクはギルドの最高峰、本社(ギルテシア)が決めているのだ。  決めるといっても、ランクが一定に達した者同士が試練を受け、それに勝った者が次のランクに上がることができる。  現在、ヴァンはBランク、シーナはDランクである。  「おい、ライクウ!いるか?」  ヴァンがマスター室の扉を開けるが、ライクウというマスターはいなかった。  「ち、またあそこか……」  ヴァンが言うあそこ。それは、このギルドの地下にある闘技場だった。  そこは、ギルドメンバーが各々の武器の調整をしたり、技を磨くために使用する場で、ギルドマスターであるライクウは鍛錬を忘れず、常に日頃からそこで技を磨いている。  そのため、ギルドマスターの仕事も疎かにする事が多い。  地下へ降り、闘技場の扉を開けると、ものすごい炎が吹き荒れた。  ライクウ……ヴァンとシーナが所属するギルド、エスクリプスのギルドマスターで竜人の火属性。  属性とは、全員が持つ五大元素からくるものだ。  火、水、風、土、空……このうち一つの属性を必ず持って生まれ、その属性の魔法を使役する事ができる。  ただし、空の属性を持って生まれることはものすごく少ない。  極端に言えば、100年に一人という確率なのだ。  何故かと言うと、空の属性はすべての属性の中で最強といってもいいレベルで、パワーは劣るが空に関係する……水と風を使え、天候さえも範囲は限られるがコントロールができ、さらに五大元素に近い存在……雷も使えるのだ。  そして、空ほどではないが、レアな属性が存在する。癒だ。  癒は100人に一人の属性で、高い回復魔法を扱うことができる。  シーナもそのうちの一人である。  そのため、シーナは戦闘ではなく、医療の方に力を入れているギルドメンバーだ。  ヴァンは風属性で、真空刃を剣に付加させて広範囲の攻撃を可能にしたり、相手を上空に飛ばして攻撃するという戦法をとる。  武器だけではなく、自分の属性をうまく使って戦うのもポイントの一つだ。  「おい、あっちぃよ。話があんだから早く上に来いよ」  「おお、戻ったかヴァン!依頼は達成か?」  「だから熱いって言ってんだろ!!燃えたまま来ないで消火してから来い!!」  「お、悪い悪い」  自分の属性から出した魔法は本人にダメージはない。  そのためか、ライクウは炎の鎮火を忘れていたようだ。  後処理を終え、二人はマスター室へ向かう。  「ったく……お前はいつもいつも……」  「ハッハッハ!お前は火耐性のスキルを持っているだろう?」  「ああ……お前が俺を巻き込むからな!」  ヴァンとライクウは幼馴染のため、幼い時から一緒だ。  ライクウに至っては、属性の扱いを幼い時から開花させており、ヴァンと遊んでいるときに魔法を使用したり、ヴァンに魔法の練習相手……という名の実験台にしたりしていた。  ヴァンもそのかいがあってか、炎耐性のスキルを入手したり、ライクウの一年後に属性の扱いを開花させた。  その後、二人はギルドに入り、実力が一つ上だったライクウはどんどん力をつけ、ギルドマスターへとなった。  ヴァンも頑張っているが、スランプに陥っているせいか、なかなかランクを上げることができないでいた。  先ほど説明したとおり、一定の仕事をクリアすることでランクアップテストを受けることができる。  ギルドマスターになる条件の一つにランクがSであることになっているので、当然ながらライクウはSランクでヴァンがBランク、シーナがDランク。  シーナはランクは低いが高い回復能力を持っているし、格闘センスも抜群だ。  「で、話ってのは?」  ヴァンが説明する。  それを聞いたライクウは低く唸った。  「むぅ……起きないと聞けないし、とりあえず待つしかないな……」  「やっぱりか。見に行くか?」  「当然だ」  二人はマスター室から医務室へと向かう。  医務室の扉を開けると、ちょうど目の前にシーナがいた。  「あ、マスター。ナイスタイミングです。今、呼びに行こうとしていたとこでして」  「ん、どうした?」  「あの子が目を覚ましました」
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