31.VSギルテシム!

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31.VSギルテシム!

 「フ、逃げずによく来たじゃないか?ライクウよ」  ん?どっかからかエコーがかかった誰かの声がした?  けど、今この場には僕達しかいないみたいなんだけど……  もしかしてこれはアレか?漫画やアニメでよくあるような、セリフの後から上から降ってくるパターンかな!?  そう思って上を見てみるが、誰かが来る気配がない……  「お前、どこ見てんだ?下だ下」  「え、下?」  言われた通り足元を見てみれば、ちょこんとしたネズミ……獣人が腕を組みながらこっちを見上げていた。  ちっさ……ちっさ!?  え、いくらネズミでも獣人がここまで小さいわけ……あ、もしかしたら僕と同じ子供なのかも?  だとしたら小さいのも説明がつくし。  「君も子供なんだね。同じ子供同士、よろしくね」  「ブフゥ!」  頭撫でながら言ったらヴァンが思いっきり吹き出し、他は必死に笑いを堪えていて、ネズミ獣人はプルプルと震えだした。  え、なに?  「き、貴様……このワタシが子供だと……?この小僧がぁ!!」  うわ!な、なんなの?  いきなり砂嵐が巻き起こり始めたんだけど!  「ワタシはギルテシムのギルドマスター、アムルスだ!!子供に子供と言われるとは……そうとうワタシを嘗めてるらしいな?」  な、なんて迫力……この砂嵐、かなりの範囲と威力だよ!  いだだだ!小石や砂利がビシビシ当たって痛い!  「ご、ごめんなさい!」  大人ならそう言ってほしいです……  とりあえず頭を下げて謝ると、砂嵐が一気に消えた。  「わかればいい」  アムルスはそう一言言うと、クルリと振り返ってスタスタと歩いていく。  うえぇ……砂嵐の砂利が口の中に入ってジャリジャリする……い、いったい何だったの……?  「コウジ。奴はギルテシムのマスターのアムルスだ。属性は地で、「小さい」、「子供」と言われるのを極度に嫌っている。奴の前では言わないほうがいいぞ?」  「いや、あの……そういう重要そうなことは先に言ってくれません?」  なんでそれを早く言わないの?  戦う前から地味に余計なダメージを受けちゃったじゃん。  ヴァンに至ってはさっき思いっきり吹きだしたよね。  訂正しろとも謝れとも言わなかったし、故意で言わなかったでいいんだよね?そう受け取ったよ。  だから、ヴァンの後ろから誰かが近づいていて危険を感じるけど、僕は何も言わない。  「まずは今回のウチのメンバーを紹介しよう。スピードのジョルガ!」  アムルスの紹介で一歩前に出たバランスが取れてるっぽい筋肉が目立つ白馬の獣人。  ジョルガ……がバルトの相手か。  ……これ、なんかスピードもヤバい気がする。  「次にパワーのベアルグ!」  お次はガチムチって感じの熊獣人。  まさにパワータイプって感じで、現在進行形で筋肉をアピールしている。  ……自信がとてもおありのようで、ヴァンをチラッと見れば顔がヒクついているよ。  ちょっとコレが人間だったらと想像してみたら……うん、暑苦しいしむさいわこれ。  しなきゃよかったとちょっと後悔。  獣人の彼のほうがマシに見えるのは不思議。  「そしてお待ちかね。バトルはウチのエース……」  「ヴァ~ン~!」  「どあぁ!!」  突然誰かがすっごく嬉しそうな表情でヴァンに背後から抱きついてきて、ヴァンの全身の毛が一気に逆立った。  リアルで毛が逆立つ瞬間を見たのは初めてだわ。  ちなみに僕は誰かが近づいてるのはわかってたから特に驚いてません。  ただ、なんか様子がおかしいんだけど……?  「元気か?ちゃんと飯は食ってるか?誰かにいじめられたりしてないか?そんな奴らは兄ちゃんがやっつけてやるから遠慮なく言うんだぞ?それよりこっちのギルドに来れば安心だ。そうだ、そうしよう!さ、今すぐギルド変更の手続きを……」  「うるっせぇ!!くっつくな、ベタベタ触んな変態クソ兄貴!!毎回毎回勝手なことを言うんじゃねぇ!!つか爪が食い込んでいてぇっつの!」  マシンガントーク並みの速さでペラペラと発する狼獣人とベタベタ触られて怒ってるヴァン。  顔や毛皮の色とかが似てるし、ヴァンが兄貴って言ってるからこの獣人がヴァンの兄で間違いなさそうだ。  ……なんというか、想像してたのと違うんですが?   「えっと……あれがヴァンの兄のヴァノで僕の相手……でいいんですよ……ね?」  「ああ。言ってなかったが、昔っからヴァノはヴァンがすごく大好きでな……ギルドに入ってから毎回あんな感じだ」  「え、それってブラコンってこと?あの感じだと相当みたいだからなんかヴァンが気の毒に思えるな…… 」 「ぶらこん……ってなんです?」  「兄弟……つまり、兄、又は弟が大好きな意味だよ」  なんか天才って言うから、勝手に自分の力を過信して威張り散らしてる奴だと想像していたよ。  イチャイチャ&ギャーギャーしているのを見ていて、さっき背後から近づいてきてるのを教えてあげればよかったかな。ごめんね。(棒)  「おいヴァノ!さっさとこっちに来い!!」  「チェ、なんだよー。もう少しでヴァンが心変わりしてくれるっつぅのによ」  「んなことねぇからさっさと戻れ!」  ヴァンにお尻を蹴られて渋々と戻っていくヴァノ。  さっきまで千切れるんじゃないかと思うほど振っていた尻尾も、今はシュンと垂れている。  いやぁ、ヴァンはモテモテですなぁ。  「おい、コウジ。なんか今イラっとしたんだが?」  キノセイデスヨー。  「さて、そっちのメンバーは誰かな?ま、こっちの完全勝利は確実だがな!」  「こっちはスピードにバルト、パワーにヴァン、バトルにコウジだ」  「コウジ?もしかして賭けの対象になってるそのガキか?ハーハッハッハ!勝てないと思って捨ての大将として出したか!しかもそんなガキを!」  「俺はコウジを信じてる。確かにコウジはまだ子供で経験は浅い。けれど、コウジの潜在パワーと強者に立ち向かう勇気!俺はそれを信じてるんでね」  マスター……そう言ってくれて僕は嬉しいです。  僕は全力で頑張りますよ!  「……まぁいい。とにかく早速始めようか。まずはスピードのジョルガとバルトだな」  言い返したマスターを気に入らなかったのか、アムルスはムスッとした表情で勝負を開始させようとする。  まずはスピードか……どんなことをするのだろうか?  「ねぇ?いつもはどんな内容なの?」  「毎回バラバラですよ。マスター同士が交代交代で勝負内容を決めるので、自分のメンバーに合った内容にしますね。今回はギルテシムのマスターが決めるので、ウチは不利ですね……」  よりによって!? それってかなりまずいんでない?今更だけど。  「今回の勝負内容はこっちが決めるんだったな?なら、メクラゲ草を二つ取ってこい!先にここに戻ってきたほうの勝ちな。制限時間は夕暮れまでだ」  メ、メクラゲ草……ってなに?  一瞬、目玉があるクラゲを想像してしまい、気持ち悪くなってしまった。  想像するんじゃなかった……  「ねぇ、メクラゲ草ってなに?」  「メクラゲ草とは薬草になるハーブです。メクラゲ草を使って調合すれば、普通に茂っている薬草より遙かに効力があるんですよ。野草ですとなかなか見つかりにくいので普通は自分達で育てるのですが……」  へぇ、野生のメクラゲ草はレアなのか。  あれ?それって見つけるのにかなり時間かかるから、スピードより体力と忍耐力がかなり大きいような?  そもそも、バルトに草の知識ってあるの?  選手であるバルトは、わかっているのか顔がヒクついていて、ジョルガはニヤニヤしながらバルトを見ている。  同じ馬獣人だけど、完全に見下してるね。  いや、同じ馬獣人だからレベルの低いバルトを見下してるのか?  まるで、「自分はエリートだから、こんな駄馬に負けるはずがない」と言ってるみたいに。  ……考えすぎかな。  僕はまだこの世界のことも獣人のこともよくわかってないんだから。  そんなことを考えていたら、いきなりドォン!というでかい音がして二人が一気に走り出した。  さすが馬獣人。あっという間にコロシアムから出て行って見えなくなったよ。  バルト……頑張って。
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