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35.四天王と魔王
一方、魔王やジャドー達がいる古城。
その長い通路をジャドーはやる気……いや、殺る気に満ちた表情で進んでいた。
ジャドーはしばらくの間、子供である狐司に再戦して葬るべく、力や魔力を蓄えていた。
そんな中、魔王の一人であるネリアルが狐司に接触した上に、まだ生きてると聞いていてもたってもいられなくなって行動に移すことにしたようだ。
「あのガキを殺るのは俺なんだ。魔王様であろうと、横取りされてたまるか……!」
険しい表情でブツブツ言いながら通路を進んでいると、途中で壁に寄りかかってかっこつけている男がいた。
まるで、最初からジャドーを待っていたかのようだ。
そして、見た目は人間のようで、所々に竜のパーツがある。
「よう、ジャドー。数百年も行方をくらました上に、獣人のガキに負けたんだって?」
「グランロード……!まだ負けてねぇよ!勝手なこと言ってんじゃねぇ!!」
「だが、おめおめと逃げ帰ってきたんだろう?同じ四天王として恥ずかしいんだがねぇ?」
「ク……!」
どうやらジャドーは四天王で、もう一人も四天王のようだ。
つまり、狐司はいきなり四天王を相手にしたことになる。
ジャドーは図星で言葉が出ないらしく、拳を握りしめてプルプルと震えている。
「手を貸してやろうか?」
「は?」
「我らドラゴンの手を貸してやると言ってるのだ。これから再戦しに行くのだろう?」
「ああ?んなもん……」
明らかに何かを企んでいる表情で案を出してくるグランロード。
彼はドラゴンを統べる魔王の直下の部下の四天王らしく、ドラゴンも自由に操れるようだ。
グランロードの案を速攻で断ろうとしたが、何かを思いついたようで、ジャドーは振り返って考え始めた。
「(まてよ?こいつをうまく使えば楽に殺れるんじゃねぇか?それどころか、隙をみて始末することも……クックック)いいだろう、そこまで言うなら手伝ってもらおうじゃないか!」
「……なにか企んでるようだが、せいぜいやられないように気を付けるんだな。相手は子供とはいえ、一度敗れているのだろう?」
「チッ!んなことてめぇに言われなくてもわかってるっつの!」
そう吐き捨てて、ジャドーはズカズカと先へ進んでいってしまった。
残ったグランロードはフッと笑い、赤いマントをバサッと羽織ってとある広い部屋へ向かい、そこの扇状に四つ並ぶ玉座みたいな椅子に座っている一人に跪く。
「我が王よ。これからとある場所に赴いてまいります」
「わかっている。すべて聞こえていた」
「……さすがです。離れていたのに……やはり、魔王様の《竜耳》には隠し事はできません」
さらに深々と頭を下げるグランロード。
どうやら彼らが魔王らしく、グランロードが跪いている相手こそがドラゴンの王なのだろう。
「よい。それよりも、お前に指令を言い渡す」
「ハハッ!なんなりと」
「これからあの獣人に会いに行くのだろう?ならば……」
「……承知しました。見極めてまいります」
「あ、ちょっとちょっとー。ついでにアレも頼んでいいー?アンタが使えると思ったのでいいからさー」
立ち上がって去ろうとしたとき、別の椅子に座る幼い少女っぽい声の主が、グランロードにパシリみたいな言い方で頼み込む。
ペコリと頭を下げただけで立ち去るグランロードに、その魔王はプクーッと頬を膨らませた。
「なぁに、あれー。不愛想ねー」
「グランロードは我の部下だ。お前の頼みはどうでもいいのだろうな」
「なにそれー。超ムカつくー」
プイッとそっぽを向き、ドラゴンの王はクックックと笑う。
「っていうかローズリィ?アレを頼んだって事は、完成したのかしら?」
ネリアルがそっぽを向いた魔王に、アレに関することを聞くと、パッと明るい顔で振り返ってきた。
「そーなの!すっごいでしょ!アンタんとこの獣が力を貸してくれたおかげよ!」
「おかげでウチの大半が一部ハゲてしまったがな……」
生き生きと言うローズリィと部下がハゲてしまったことに、ネリアルは溜息を一つ吐く。
「キシシ。毛の一本や二本、抜けても変わんねぇだろぉ~?」
「うっるさいよ、レオサイド!!アンタは図体がでかいだけで毛がないじゃない!こっちは毛が大切なのよ!」
「そんなことよりネリアル、お前が戦ったという獣人、お前から見てどうだったんだ?」
「そんなことってなに?喧嘩売ってる?……実力はまだまだけど育てばかなり楽しめると思うわ。もしかしたら、近いうちに私達クラスになるんじゃないかしら。てか、レオサイドんとこのジャドーだっけ?アイツじゃ勝てないと思うわよ?」
玉座の肘掛けに肘を置き、マズルを掌の肉球で支えてブスッとした表情で答える。
その態度より、ネリアルの評価にクックックッと笑うドラゴンの王。
「俺も手合わせしてみたいものだな。ま、まずは部下たちの報告を待つことにしよう」
「ちょっと!あの子供は私の相手なんだけど?」
気味悪い笑いをしあう魔王達は、再び玉座に深く座って魔王らしい風格を漂わし始めた。
一方、エスクリプスVSギルテシムの第三試合では……
「ぐぅ!!」
風の力を乗せたヴァノの重い拳が僕の腹部の炸裂した。
とっさに脚に力を入れてみたけど耐え切れず、ステージの外に向かって吹っ飛んでいった。
やばい、このままじゃ始まって即終わる!
《雷竜の鉤爪》を反対側の端っこに引っ掛けて、なんとかステージ外ギリギリで踏みとどまった。
あ、あっぶない……あと一秒でも遅かったら……勝負が決まっていた…… だけど、踏みとどまった!
「へぇ、並みの奴なら今の一撃で終わるんだが……技で耐え抜いたか」
「……僕は数日前にほとんど何もできずに負けた。助けてくれたみんなのために強くなるって決めたのに。だから、僕はにさらに誓ったんだ……借りを返すために強くなるって……だから、こんなとこで負けるわけにはいかないんだ!」
「いいねぇ……その目。好きだぜ?その燃える闘志!やってやるよ、全力で……この俺を倒してみろ!!」
ヴァノが大きく感じる……壁かってくらいに。
ヴァノが今の壁っていうんなら、乗り越えてやる!乗り越えて、僕はさらに強くなる!
《魔弾》をヴァノに向けて放ち、尻尾に力を溜め始める。 もちろん《魔弾》はかわされ、ヴァノはそのまま僕に突っ込んできて、風がヴァノの右手の爪先に集中する。 あ、これはまともに食らったらまずい!
すかさずジャンプしてかわすけど、読んでたのか左手で僕の尻尾を掴んで引っ張ってきた。
「逃がさねぇよ!」
尻尾の付け根に激痛が走って涙が出る。 脚を伸ばして地に着いた瞬間、ヴァノの腕を掴んで一本背負いして背中からたたきつけた。
そのショックでか尻尾から手が離れ、すぐさま距離をとって付け根を押さえた。
ったいな、もう!あんなに強く握って引っ張るなんてバカなんじゃないの?引きちぎれるかと一瞬思っちゃったじゃないか!!
さすりながらチラッとヴァノを見れば、ムクリと起き上がり、ユラリと立ち上がった。
うわ、こわ!ゾンビかよ!
「面白くなってきたじゃないか……体も温まってきたし、こっからは全力だぁ」
僕はその動きがホラーで冷たくなってきてるんですが!
っていうか、とても全力を出すように見えません!
とにかく、この雰囲気に負けちゃだめだ。負けてちゃ勝てるものも勝てなくなってしまう!
……なんだ?この感じ。
なんか……邪悪な魔力がこっちに近づいている?
ヴァノも感づいたのか、僕と同じ方角を見ている。
ヴァノだけじゃなく、他の数人も感づいている。
そしてその魔力を持ったなにかは、黒い塊となって空を飛んでいて、こっちに向かってるのが見えた。
その塊は近づいたら角度を変え、こっちに降り始めた。
誰かはわかんないけどこの魔力、僕は知っている?
マスター達は散り散りになるけど、黒い何かは狙っていたかのように……ヴァンに激突して……消えた。
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