70人が本棚に入れています
本棚に追加
36.ジャドー二戦目!
なんだ……いったい何がヴァンにぶつかったんだ?
……いや、わかる。この魔力は間違いなく……アイツだ。
脱力していたヴァンが顔を上げると、ステージ上に高くジャンプして乗ってきた。
そして、ゆっくりと僕の方に振り向いて歩み寄って目の前に立ってきた。
なんというか……この短い間に魔力がすごい上がってる感じがするよ。
「……思ってたより早く再戦に来たんじゃない?……ジャドー」
「テメェを殺すのは俺だ。いくら魔王様といえど、俺以外に殺されたんじゃたまんねぇからな」
生まれて12年……いや、2週間?にしてついに命を奪いに来る奴が現れたか。
……この世界で生を受けてからの期間を考えるとまだ赤子だけど、この身体の歳的にはもう少年なんだけどね。
「コウジ?ヴァンはいったいどうしたんだ?」
「前のいっちばん最初の仕事の事話したでしょ?その時に戦った奴ですよ」
「そいつが……」
「おっと、邪魔はさせねぇぞ!」
突如、ステージ周りが下から上へと登る壁のような風に覆われた。
例によってこれは……
「触んないほうがいい。体を切り裂かれたくなければな」
やっぱりそれか。
今、ステージにいるのは僕とヴァノ、そしてジャドーで他は外側。
つまり戦えるのは僕とヴァノの二人だけか。
「まったく……またヴァンの身体を使うなんてワンパターンなんだから……どっちかのマスターの身体のほうが勝率があったんじゃないの?」
「だまれ!お前に俺の気持ちがわかるか!!」
「まったく……お前達に何があったのかはわからないが……平たく言えば俺の可愛いヴァンの身体が乗っ取られてるんだろう?そいつぁ許せないな」
え、もうジャドーの事理解したの?
さっすが天才と言われるだけの事はあるわ。……ブラコンだけど。
「コイツは俺にやらせてもらう。俺の可愛い弟の身体を乗っ取るのは万死に値する!」
「いやいやいや、共闘という発想はないわけ?こっから出られないわけだし、一緒に戦おうよ。それとも何?一人でしか戦う事しかできないの?天才と言われてるけど、そのモフモフとシングルプレイしか能がないの?この変態」 「なんだと?」
お互い近距離で睨みあう。
昔だったらこの唸ってる狼の顔は恐くて動けないだろうけど、まだ短いけど獣人として過ごしたり戦ったりしたからか、そんなに怖くは感じない。
「貴様ら……俺を無視すんなぁ!!」
風の球体が僕達に向かって飛んできたけど、しゃがんで避けた。
「ちょっと!こんな時になに子供みたいな事してんのよ!さっさとなんとかしなさい!」
僕は子狐ですからねー……なんて言ってる場合じゃないか。
早くやっつけてヴァンを助けないと。
「とにかく、ここは一旦休戦して共同戦線しよ」
「……いいだろう。足手まといになるなよ」
一言余計だっての。
ま、こんなのでも、あの風のバリアのせいでマスター達の援護は期待できないし、いるだけマシってものだよね。
「では、他の者たちは私が相手をしよう」
上から声がしたから見てみれば、たくさんのドラゴンや、人型に竜の角や尻尾、羽がある奴が飛んでいた。
なんというか、人間と竜が合体したような感じ?
人間はいなくても、人間のような姿のはいるって事かな?
今日まで一度も見なかったけど……
「お前は?」
「私の名はグランロード。ドラゴンマスターの魔王様の忠実な部下で、そこにいる奴と同じ四天王さ」
また四天王……マスター達は問題ないけど、疲弊してるバルトや戦えないシルフィーがまずい!
「シーナ!バルトにメクラゲ草使って!んでもってシルフィーを安全な場所に!」
「わかりました!コウジも気を付けて!」
「ちょっと、なに偉そうにいって……アンタは勝てる見込みあるっていうの?」
「ないさ。でもやらなきゃいけないんだから、勝つって信じて安全なとこで待っててよ」
しばらく僕とシルフィーは睨みあい。
こんなことしてる場合じゃないけど、たぶん離れようとしないだろうし。
お願いだからわかってくれ……!
「ッ……わかったわよ!そのかわり、もう一回死んだら許さないんだからね!!」
「うん、ありがと」
そう言って、シルフィーはシーナと一緒に離れていく。
もう一回死んだらって……それは僕に言ってるの?タクトに対して言ってるの?
まぁ、これでシルフィーはとりあえず安心だ。
にしても、ジャドーやグランロードってやつはなんで襲ってこなかったんだろ?
さっきのやりとりは絶好のチャンスだったのに。
……ま、いいや。今は目の前の敵だ。
「待つなんて余裕のつもり?僕を殺したいなら、今のが絶好のチャンスでしょ」
「そこの奴のようなどうでもいい奴ならそうしてるが、お前は正面から倒す必要がある。でないと、俺の実力で殺したことにならないからな」
へぇ、別に単なる虐殺野郎ってわけじゃなさそうだな。
「四天王にまでは上り詰めたが実力がなければ俺は……」
ん?今、何かボソッと言ってたような?
いや、今はそんなことどうでもいい。
ジャドーを倒してヴァンを助ける!
「なんか盛り上がってるとこ悪いが、コイツを倒してヴァンを助けるのはお前じゃない……この俺だ!!」
僕とジャドーとの間に入り、僕を見てヴァノがなにか叫んだ。
あ、やっぱり共闘する気がない……どころか、この戦いでは味方であるはずの僕にまで敵として見てない?
しかもこの感じ……自分の強さに溺れて自滅するタイプじゃん。以前に漫画とかで見たことあるわ。
思わずため息出るわ。
たいてい、これを言われた相手は挑発に乗るか……
「あ~……はいはい、とにかく今はヴァンの身体からジャドーを追い出せればいいさ……」
呆れてこうなる。
ヴァンとヴァノって兄弟なのに、なんでこうも全然違うのかね……よく見りゃ体毛や体格、顔つきは似てるのに。
正直、共闘したくないってのもある。なにせ、こういう時は大抵、技の流れ弾がこっちに飛んできたり、息が合わずに敵と技の間に入ってしまってまともに受けてしまったりすることもあるし。
とにかく、それは仕方ないと片づけて気持ちを切り替えてやっていくしかないな。
深呼吸を一回してから構える。
ジャドーも構えだし、しばらく睨みあう。
先に動いたのはヴァノで、まずは様子見なのか激しい拳の攻守が繰り出されていく。
高速で動いているため、一瞬でも気を抜けない。
拳と拳のぶつかり合いから一旦離れ、ヴァノの爪先に魔力が集まっていく。
「風斬撃!!」
風を引き裂くかのような大きな風の斬撃がジャドーに向かって伸びていく。
でも、ジャドーはこれを両手の爪先で受け止め、後ろに押し出されながらも力ずくで左右に弾いた。
「(なるほど、かなりのパワーだな。少し痺れたぞ。もしかしたら……)」
ジャドーが手を見て何かを思っているうちに、僕は大きく跳んで真上から《獄炎弾》を放つ。
もちろんかわされたけど、そこは地雷。
避けられることを想定して、ステージ上の四方にトラップを仕掛けたんだ。
特訓しているうちに覚えた地雷式トラップ……
「雷光地雷!」
下から上へと登る電撃が檻のように相手を閉じ込め、無理矢理出ようとすればダメージを受けていく。
ま、言っちゃえばこれは、前にやられたお返しだね。
さて、これでどこまでダメージを与えられるか……と思っていたら、後ろからヴァノに“ゴッ!”という鈍い音をする力で殴られた。
要するに……めっちゃ痛い!
思いっきり岩壁に激突しても全然痛くなかった防御力と《衝撃耐性》をいともたやすく突破するとは……
「な、なにすんのさ!一瞬脳が揺れたんだけど!?」
「お前こそ何してんだ!あれじゃ俺の可愛いヴァンの身体が傷つくだろうが!」
いや、最初に傷つけようとしてたのはヴァノだからね!?
風斬撃……だったかな?をまともに受けてたら、下手すりゃ八つ裂きなんですが?
あ~思い切り殴ってくれちゃって……脳が揺れて気分が悪い。
ここで背後から爆発音と爆風。
振り返ってみれば、ジャドーが雷光地雷を吹き飛ばして脱出していた。
「ちょ……ダメージは一切なしっすか……?」
焦げた跡はあっても、ダメージを受けたようなケガは一切なかった。
あれ、ヴァンにやったときは結構ダメージ与えられたのになぁ。
しかも、ステージを削ることでトラップを解除するとは……思ってたより頭が回るようだ。
最初のコメントを投稿しよう!