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38.みんなを信じて
前と同じように狐司の毛皮の色と眼が変わって風が止むと、グランロードは魔王達に近いほどの威圧を感じていた。
さらに普通の威圧とは違う、どうしても逆らえないような……そんな威圧感もあった。
現に、他のみんなを襲っていた無数のドラゴン達も、グランヴァルツが出てきてから動きが止まり、ガタガタと震えだしている。本能でヤバいと思っているのだろう。
グランロード自身も、先程まで余裕だった表情も歪み、冷や汗が垂れるのが信じられないといった感じだ。
「フフ……まさかこの姿になって最初の相手が四天王のドラゴンマスターとはな」
「貴様……先程の子供ではないな……?」
「我はグランヴァルツ!竜王の称号を持つレッドドラゴンよ!今はコウジという獣人の体の中に住まわせてもらっているがな」
小さい身体で腰に手を当ててドヤッとした表情でずんぐり変える様は本当に子供の様でかわいく見えるが、中身は強力な力を持つ何百年と生きたドラゴンだ。見た目で判断してはいけないという言葉がピッタリな存在。
そして、グランヴァルツがドラゴン達に重圧を放つと、ドラゴン達がビクッと震えあがり、グランヴァルツの後ろに整列をする。
ドラゴン達が動きを止めたことで戦ってたライクウ達の戦いも止まってしまう。
一度グランヴァルツに会っているライクウ達はともかく、会ったことのないギルテシムのメンバーは混乱してしまっている。
存在していたかではなくオーラの大きさ、そして敵なのか味方なのか。
もし敵ならば、ドラゴン達と一緒に襲って来るはず。なのに今は四天王のドラゴンマスターと対峙している。
状況的には味方と思えるが、ドラゴンは魔物に分類されているため、安易に決めつけることはできない。
そこは、ギルドマスターとしてはさすがと言えるだろう。
そしてグランロードは、グランヴァルツの名を聞いた途端、冷や汗を流し始めた。
「グ、グランヴァルツ様……《竜王》の称号を持つあの……」
「ほう、知っていたか」
「もちろんです!私はあなたを尊敬しているのです。あなた様の力は魔王様以上かもしれないと聞かされてきたのですから!ですが……なぜ……!あなたは本来我々、魔族の仲間のはず!なぜ獣人なんかの身体の中に……!」
「なに、あのままじゃ無駄死にするだけだったからな……我の力を縁のあったコウジに授けただけだ。まぁ、こうやって意識が残ったのは予想外だったがな」
「ならば!今あなたが表に出ているのでしたら、我々と共に獣人共と戦っても……!」
「悪いがこの身体はコウジのモノで、我は生きるのに身体を借りている状態なのだ。だからコウジの敵は我の敵になるから我は獣人の味方なのだ。残念ながら、我々は戦う運命にあるな」
グランロードは、とても驚いた表情をし、動揺している。
かつてはすべてを炎で灰にし、その圧倒的なパワーと能力で魔王と同等かそれ以上と言われた竜王が、今では敵であるはずの獣人の子供の身体に宿り、その味方をしているのだから。
だが、今となってはもはや敵同士。
たとえ憧れ、尊敬していたとしても敵となった今は戦わなくちゃならない。
それを頭で素早く処理したグランロードはすぐに冷静さを取り戻し、再びまっすぐグランヴァルツの顔を見る。
「どうやら覚悟はできたようだな?」
「そうですね。一つ確認です。私があなたに勝てたら、あなたの《竜王》の称号は私に移るのでしょうか?」
「そうだな。勝てれば……な」
その言葉を聞いて、グランロードはニヤリとする。
「わかりました。なら私がもはやドラゴンの敵であるあなたを倒して、その《竜王》の称号を譲り受けましょう」
「やってみるがいい」
両方が構え、先にグランロードが仕掛けた。
素早い動きで炎を帯びた爪で攻撃するも、スッと簡単にかわされた。
グランロードは同じ技で連打するも、ことごとくかわされる。
普通の人……いや、獣人ならばすべてまともに受けて貫かれて焼かれ、絶命していまっているだろう。
しかし、グランヴァルツはそんな攻撃を顔色一つ変えずに簡単にかわしてしまっている。しかも最小限の動きで……だ。
「隙だらけだな。ドラゴンの攻撃っていうのはこうするものだ」
グランヴァルツは一瞬でグランロードの懐に入り、強烈な拳を腹にくらわせる。
ドラゴンの姿をしているとはいえ、獣人……しかも子供のパワーとはとても思えない攻撃力を発揮され、グランロードは空中でよろめいてしまう。
「たしかにパワーとスピードはいいが、攻撃が大振りだから速くても簡単に避けられる。今みたいにパワーとスピードをそのままにしてもっとコンパクトにすべきだな」
「ぐ……相手が竜王とはいえこんな簡単にやられたら四天王の名折れどころか一人で何もできない最弱のジャドーと同じになってしまう……。私はドラゴンの四天王……そんなことはあってはならない……」
グランロードがブツブツ言い始め、言い終えたと思ったら冷静を欠いた暴走モードに入ったかのように暴れて攻撃してくる。
グランヴァルツはことごとくかわしていくが、四天王とは思えぬメンタルさに溜息を吐く。
これならば、まだジャドーの方がめんどくさいと思ってしまう。
先程よりも速さはあるけど攻撃が単調だからかわせる……が、暴走モードに入ってるから体力無尽蔵のように動いてくる。
さすがのグランヴァルツもその止まらぬ連続攻撃にだんだん焦りが出始め、かわすのに手足も使い始めた。
そんな攻撃を止めるために伸びてきた腕を払い除け、腹部に重い拳をくらわせ、グランロードを気絶させる。
もたれかかってるグランロードを見るグランヴァルツは、どこか違和感があるような表情で首を傾げた。
「(おかしい……いくらなんでもあっさりしすぎてはいないか?まるで、何かの目的で演技をしてるような?……いや、今はそんなことより)」
グランロードをコロシアムの客席の方に投げ、ヴァン(ジャドー)とヴァノの方を見れば、一見は決着が着いているように見える。
それは、ヴァンが倒れていてヴァノが立っていることからヴァノの勝ちであることがわかる……が、グランヴァルツは見抜いているように溜息を一つ吐いた。
「これはまだまだ終わらぬな……このまま我がやってもよいが、ここはやはり交代したほうがいいのだろうな」
《ドラゴン化》を解き、元の獣人の姿に戻ってから《二心一体》を解除するグランヴァルツ。
毛の色も消えていき、完全に解除されてから再び眼が開かれた。
~~~~~~~
これはどういう状況なのだろうか?
無数のドラゴンがこっち見て震えながら整列しているし、グランロードってやつはいなくなってるし……これは勝ったってことでいいんだよね?
そういえばヴァノ達は……ヴァンが倒れてる?
ってことはヴァノが勝ったのか……と、言いたいけど何やら様子がおかしい?
「コウジ!気をつけろ!!」
「マスター?」
「そいつはまだ……」
「クックック……」
な、なんだ……? 急にヴァノが急に笑い出したと思ったら、なんか黒いオーラが噴出したんですけど!?
このオーラ……まさか!?
「すばらしい……この力……さっきの奴とは比べモンにならねぇほどのパワーだ!これなら……負ける要素なんかどこにもない!」
クルッと振り向いてきたら、顔をすごいニヤァ……とした悪い顔で見てきた。
間違いない。ジャドーの奴、ヴァンからヴァノの身体に移ったな!?
若干力をつけたとはいえ、前回はヴァンの身体であれだけ結構ギリギリの戦いだったんだ。
ヴァノの身体を得た今、どこまで通用するのか……
そして、ジャドーが指をクンッと上げると、ステージ外の地面から今度は骨やら腐った死体やらが現れた。
「どうせここにいる奴らは皆全滅するのだ。お前が死ぬのが先か、周りにいる奴らが死ぬのが先か、楽しみだな?不死身軍団の力、とくと味わうがいい」
不死身!?って事はアイツらは倒せないってことなのか!
それって単なる持久戦……
「少しは落ち着け、素人が」
ギルテシムの面々が少しずつ敵が近づいてる中で呆れた感じにこっちを見ていた。
「そんな事で慌ててるんじゃ、まだまだやな」
「まかせろ、俺達、やられない」
「お前は目の前の事に集中しろ。こいつらは死体……いわば、魂がないんだ。つーことは、こいつらを操ってる奴がいるってことだ。ここまで言えば、わかるよな?」
操ってる奴……そうか!
アレらが動き始めたのはジャドーが指を上げてからだ。
ってことは、あの死体達を操ってるのはジャドーで、そのジャドーを倒せば動かなくなるって事か!
「わかったんならさっさと倒してこい。んでもってウチのエース様を助けてくれ。その間は……嫌だがアイツらと協力してこの場を耐え抜いてやるから」
「任せたで!」
ギルテシム……どのくらいかはわからないけど信じてくれるんだ。なんだか嬉しくて力が湧いてくるよ。 エスクリプスのみんなを見れば、当然ながら全員頷いている。
「我々もいる。我らを信じ、目の前に集中してくれ」
フェンリル達も僕が勝つと信じてくれてるんだ。
よおし!なら僕もみんなの力と体力を信じて、目の前の敵をなんとかしますか!
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