5.料理をつくるよ!

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5.料理をつくるよ!

 「さて、君はこれから施設に……」  「ここで働かせてください!」  僕の言葉に呆気取られたのか、目をパチクリさせて三人が顔を見合わせる。  そりゃ僕は子供だし、いきなりギルドで働きたいなんて普通はないだろうね。  「お前、まだ子供だろ?さっきマスターが言ったが……ギルドの依頼には魔物の討伐だってある。命が関わる仕事だぞ?」  「それでも……僕、強くなる!だから……お願いします!」  頭を下げて叫んだ。 ヒソヒソと話し声が聞こえることから、相談をしているのだろうか。  頭を上げるに上げられず、下げたままドキドキしながら待っているのは辛い……  「……よし、いいだろう」  え、今いいって?  下げていた頭をパッと上げて、竜人の顔を見ると緩やかな表情をしていた。  「ただし、最初は簡単な仕事な。討伐の際はしばらく誰かが同伴する。そして、仕事がない時は地下の訓練場で特訓だ。いいな?」  「は、はい!ありがとうございます!」  っしゃあ!!やったぁ!!  しばらくは条件付きだけど、ファンタジーライフの始まりだ!  うっわ、すっごいワクワクしてきた!  「じゃあ、まずは自己紹介からな。俺はこのエスクリプスのギルドマスター、ライクウだ。属性は火の竜人だ」  ギルマスのライクウ……属性は火か。 「私はシーナ。属性は癒です」  「俺はヴァン、狼獣人で属性は風な!」  「あ……ヴァンって狼だったんだ……犬だと思ってた……」  「な……」  「プッ……」  あ、猫の獣人が吹いた……なんか必死に笑いをこらえてる。  ヴァンは尻尾の毛が逆立ってブワッとなっている。  あ……なんか罪悪感がきた……  「あ……えっと……なんかごめんなさい……」  「いや……いいさ……獣人のことをあまり知らないだろうし……気にしてねぇよ……」  いや、涙目で言われても説得力がないし……むしろ、余計気になるし……  さて、どうしよう……この空気……僕の余計な一言でこんな空気にしてしまって僕が何とかしないと……よし。  「えっと……僕は気づいたらここにいたんだけど……何があったの?」  「ああ、君は崖崩れに巻きこまれたんだ。発見したのはヴァンで、両親は息を引き取っていた。君だけが生きていたらしいが……その身体の精神はもう両親と死んでしまったんだろうな。そこに君が転生として生を受けたんだろう」  そんなことが……だとしたら、僕はあのままヴァンが助けてくれなかったら早くも二度目の死を味わっていたかもしれないわけだ。  ヴァンに感謝しなくちゃならないね。  「ヴァン、ありがとう……助けてくれて」  「別に、たいしたことねぇよ。ただ、その身体で墓参りはしといたほうがいいな」  「うん」  感謝を込めて……しっかりと……ね。  たぶん二人分の墓しかないだろうし、もう一つ作っとかなくちゃ。  そして、僕はこの身体でしっかりと生きなくちゃね。  じゃないと、三人に申し訳ないから! あと、皆に何かお礼したいな……そうだ!  「ぼ、僕、何か食材あれば作るよ!助けてくれたお礼として……」  「お前、料理できんのか?」  「うん。前世は両親共働きで、帰りも遅い時が多かったからね。お弁当だけじゃアレだから自分で作ったりしてたの」  「それは楽しみですね。では、キッチンに案内します」  もっとも、こっちの食材の事はわからないから自身はあまりないし、もし豚とかを解体する作業からなら……正直お手上げだ。  さらに、キッチンが僕に扱えるタイプなのかが不安だ。  あんなことを言った手前、頑張るしかない。  「ここですよ」  案内されたキッチンは一昔を感じさせるものだった。  ちょっと調べてみた感じ、僕でもなんとか使えるタイプ……いや、魔法を加える感じだろうか?  本来なら薪を入れる場所には穴がなくて、代わりに……ビー玉サイズのような穴がある……これはなんだろうか?  「ねぇ……この穴はなに?」  「その穴はエレメントを入れる穴ですよ」  ん?エレメント?  「え、なにそれ……」  「知りませんか?魔法力を封じ込めた球の事ですよ。ここに火の魔法力を封じ込めたエレメントを使えば……」  棚から深紅の球を取り出して、それを穴に差し込むと、球がボヤッとした赤い光を発し、次にダイヤルを捻ったら炎が現れた。  うおぉ……ファンタジーだ!  「こんな感じですね。他にも水のエレメント、氷のエレメントなどがありますので、自由に使ってください」  色々あるんだな……  ん?食材を保存するのに必要不可欠ともいえるアレが見当たんないけど……?  「えっと……冷蔵庫ってどこですか?」  「レイゾウコ……とは?」  「冷気で食材を保存しとく……箱のようなのだよ」  「あ、それでしたらあれですよ」  指差しで示されたのは隅にある木のボックス。  開けてみると野菜や肉が入っていて、すごくひんやりとしている。  ……なんで?  ボックスの蓋の裏を見てみると、さっきのエレメント?がくっついていた。  ただ、さっきは深紅の色だったけど、これは水色……いや、それより少し薄い……?  もしかして、これは氷のエレメントかな?  食材が冷えているし、よく見れば冷気が発せられてるから間違いないね。  あとは……うん、調味料もあるし、フライパンなどの器具もあるから大丈夫だね!  しかし、食べるものは人間と変わらないんだなぁ……香辛料とかネギとか大丈夫なんだろうか?  「ねぇ、米ってないの?」  「コメとは何ですか?」  ……どうやらこの世界に白米はないらしい。食べたかったなぁ。  「……なんでもないよ。じゃ、作るから少し待ってて。このギルドには三人だけ?」  「他にも、もう三人いますよ。仕事中ですが、今日中に帰ってくるはずです」  なるほど、だったら他の獣人達のも作ろうかな。  さて、何作るか……この食材から考えて……よし、シンプルにアレにしよ。  まずはボウルに鶏卵を割って入れて塩胡椒で味付けして混ぜて、フライパンを熱したら油を広げて卵を流し込んで……具を包むように返したら……できた、オムレツ!  皿に乗っけてパセリを添えたら……はい、完成!  「美味しそうですね……」  「口に合えばいいんだけどね」  ヴァンとライクウを呼んでテーブルに出来立てのオムレツを並べる。  正直、獣人に僕好みの味が合うかわからない。  だから、内心ドキドキしている。  あれ、犬とか猫に葱類や塩分の摂取しすぎとかはダメって聞いたことあるけど……獣人は大丈夫なのかな?  「おー、うまそう」  「疑っているわけじゃあないが……アイツの件があるからな……食べるのが少し怖いな……」  アイツ?アイツって誰だろう……  静まり返ってしまった室内と重い空気。  い、一体なにが……  「と、とにかく食べましょう!冷めないうちに!」  「だ、だな!」  「「「いただきます!!」」」  パクッと全員がオムレツを頬張った。  ピクリとも動かないし、ウンともスンとも言わない彼らをみて不安を覚える。  や、やっちゃった……?  「……う」  う?  「うんめぇ~!!!」  その言葉を皮切りに、ガツガツと食べる雄二人とおしとやかに食べる雌一人。  よかった、うまくいったようだ。  あっという間に皿が空になるのを見て、なんだか嬉しくなった。  「おい!」  「ふえ!?」  「これからもずっと俺に料理を作ってくれ!」  突然手を握られてヴァンの告白。  反応に困ったところにシーナの蹴りがヴァンの頭に炸裂し、壁まで吹っ飛んだ。  OH……クレイジー……  「なーにいきなり告ってるんですか?やはり変態ですか?だから連れてきたんですか?死にますか?」  「ちげぇよ!ギルドのメシはずっとお前が作ってくれって言ったんだよ!アイツのメシは見た目だけで食えたもんじゃねぇだろ!」  「なら、そう言えばいいじゃないですか。さっきのは明らかに告白でしたよ?」  ちょっと内心ドキドキしてしまっている自分が怖い。  それに、また出てきたアイツって単語。  アイツってだれだろうか……この三人中じゃないことは確かだ。  ……聞いてみよう。  「ねぇ、アイツって誰?」  「ああ、今は仕事に行ってんだけどアイツは……」  「たっだいまー!」  「お、噂をすれば」  どうやら帰ってきたらしい。  なんというか……声が陽気な感じだ。  そして、ひょっこりと顔を見せたのは……馬?獣人だった。  「なになに?なーに食べてんの?もしかして、お腹が空いてオイラが帰ってくるのが我慢できなかった?ごめんねー☆」  ……性格も陽気そうだ。  しかし、なぜだろう……二カッと笑って目元でピースサインをしているのがすごい似合ってる気が……  とりあえず、さっきまでの会話から察するに、この獣人が料理を作っているようだけど……?  「お、おかえりバルト。さっそくだけど、これからのギルドのメシは新人のコイツが作っから」  OKもしていないのに、なぜが僕が料理担当になった。なぜ?  「ちょ、待って待って待って!なんでいきなりそうなるのさー?てか、その子はいったい誰よ?」  うん、僕にも彼を紹介してほしい……てか、僕はまだヴァン達に自己紹介してないよ?転生の事を話しただけで。……たぶん。  「新しく入った仲間だ。レイドが戻ったら紹介などをするとして……とにかくお前はもう何も作るな」  「ちょっとちょっとお!?マスターまでなに言ってるのぉ!そこはヴァンに何か言うところでしょう!?」  超慌てながら馬獣人が竜人に反論している。  あれ、この流れって馬獣人が僕に何か言いだすパターンじゃ?  たとえば、料理勝負とか……  「もう!だったら、オイラがこの子に勝負で勝てばいいでしょ!てことでオイラと料理勝負しろぉ!」  ビシィッと指を指して僕に言ってきた。 へぇ、馬獣人の手の形って蹄じゃなくて人間のに似てるんだ……じゃなくて、やっぱりこうなるんだね……  料理勝負なんて、初めて挑まれたよ。てか、勝負自体初めて挑まれたよ……挑んだこともないけど。  「お前……んなの、勝負前から決着ついてるだろ。俺達はそいつの料理食ったし、うまかったし」  うんうんと頷くシーナとギルマスのライクウ。  ていうか、勝手に話を進めないでほしい。  僕はまだ、料理担当になると言ってませんよ?  「オイラは知らないもん!」  「あの……僕は別に……」  「よし、君もこいつの料理を知っといたほうがいいだろうからな、わかりきった勝負になるがやってくれ」  ハッキリとわかりきったと言ったぁ!  「まぁ……マスターがそう言うなら……」  「よっしゃ!絶対負けないもんね!」  「料理はシンプルに野菜炒めな。できた順に持ってきてくれ」  野菜炒めかぁ……たしかに、シンプルでやりやすい。  バルト……だっけ?はどんな料理を作るんだろ……観察しながら作るかな。
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