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宿題
夏休み……それは、学生にとっては長い連休。一番楽しみなイベントであり、一部憂鬱なイベントである。
仲間と部活で青春したり、友達と室内でゲームしたりする者もいれば、外でプールや公園などで遊んだりする。
そんな中、学生のほとんどが憂鬱なのが宿題なわけで。明日明日と延ばして、結局最終日に慌ててやることになる。
僕、稲森狐司(いなもりこうじ)もその一人。中一の夏休み最終日になっても全く終わっていない。
自由研究は適当に書いとけばなんとかなるし、読書感想文は薄めの本を選んであるから大丈夫。問題はドリル関係。
家でやると、誘惑がありすぎてやりにくいから図書館でやってるけど、他のと違って、なかなか進まない。
数学は得意だけど、他の教科は苦手なんだよね。
国語の漢字は辞典を使いながら、理科・社会は教科書や参考書で悩みながら解いていけばいいけど、英語が意外と厄介。
先生が選んだ100ある英単語を訳も含めてノート一冊にビッシリ書かなければならないんだ。
聞いたときは「あれ、英語は楽勝じゃない?」と思ったけど、いざやってみると数ページで腕が痛くなった。楽勝と思った僕を殴ってやりたい。
「とにかく、今はめんどくさいドリルを先に終わらせるかな……英語は腕がダルくなるけど書き写すだけだし」
しばらくして、なんとか英語以外の四教科が終わったとこでため息を一つ吐いて荷物をまとめて、読書感想文のために選んどいた本を借りて図書館を出る。
え、なぜ出るのかって?涼しくて快適だから眠くなったからだよ! 英語や読書感想文の本を読んでる間に絶対眠ってしまう。 今の時間は二時半。家でできる時間は十七時間半……うん、なんとかなるな。
来年からはもっと早く終わらせるようにしよっと。……なーんて、どうせそう思ってもやらないんだろうけど。
そんな事を思いながら家に向かって駆けていく。
明日から始業式だし、先に読書感想文かな。深夜に本読むと絶対寝ちゃうだろし。
……あ、明日は楽しみにしてたRPGゲームの発売日だ!
うーわー、なんで始業式の日に…… 狙ったの?僕の二徹夜を狙ったのか、会社よ!?
……そんなわけないし、わかるわけがない。わかったとしたら、エスパーだ。
そもそも、僕をピンポイントで狙う意味もわからない。疲れてテンションがおかしくなってるのかな……?
とりあえず、銀行に寄ってゲーム代だけ下ろして帰ろ。
方向を変えて銀行へ向かう。
中に入って、ATMに並んで順番を待っていると、後から入ってきた三人がキョロキョロしながらカウンターに向かっているのが見えた。
まさか強盗?そんな漫画みたいなこと……
「オラァ!静かにしやがれ!!おい、今すぐシャッター閉めてこのバッグいっぱいに金を詰めろ。客はそこの壁に全員集まれ!」
ありました。
お約束っぽいセリフを言って天井に銃を発砲して……って、マジですか!? 僕達お客は急いで壁際に移動、職員は急いでシャッターを閉めて、指定されたアタッシュケースにお金を詰め始めた。
これ、どうしよ?三人の銀行強盗か……。
一人はお客の監視、一人は職員の監視、一人は全体を見回してるっぽい。 あー……タイミング最悪だなぁ……。
そんなことを思っていたら、お金を詰め終わったらしく、アタッシュケースを回収している。
「よし!急いでズラか……」
外からパトカーのサイレンの音が聞こえる。外の誰かが通報したのかな? 「アニキ……どうしやす?」
アニキと呼ばれた男は唸り始め、やがてこっちを見た。
あれ、なんか嫌な予感が?
「おい、そこのガキ!こっちへ来い!!」
やっぱり!?
周りから安堵のため息が聞こえる。
まぁ、人質なんて普通にやりたくないよねぇ……人質に丁度いい子供って僕だけみたいだし……
なんとか抜け出せないかなぁ……と思いつつ、強盗犯に近づく。
すぐさまよく漫画で見る、腕で首をホールドさせ、頭に銃を突きつけられた。
ていうか、なんでこんなに落ち着いてられるんだ、僕?
「おい!シャッターを開けろ!」
「ちょ、痛い痛い!もう少し優しくしてよ!」
「死にたくなかったら黙ってろ!」
なにかはわからないけど金属みたいななにかが喰いこんで痛いんだっての!もう!
強盗犯の叫びで職員はビクビクしながらシャッターの開閉ボタンを押した。 ゆっくりと上がっていくシャッターの間から、警察官が見える。
おおう、たくさんいるなぁ……漫画やアニメでは見たことあるけどリアルだと初めてだ。
「君達は完全に包囲されている!おとなしく……」
「うるせぇ!んなお約束のセリフはいいんだよ!こっちには人質がいんだ……ぶっ殺されたくなくば道を開けて余計な動きをすんじゃねぇぞ!!」
耳元で叫ぶものだから耳が痛い。
そっちもお約束なことをさっき言ったんだけど?自分なこと棚に上げて何言ってんのさ。
なんて思ってたら、さらに僕の体を強盗犯の前に持ってきて、再び銃を突きつけてきた。
……つまり、耳と頭が痛いです。あとは謎の金属が喰いこんだ首。
警察が苦虫を噛み潰したような表情で道を開け、その間を犯人がゆっくりと周りを見渡しながら進んでいく。
あれ、この体制チャンスじゃね?
左足で力強く踏み込み、右足を大きく前に出して振り子のように思い切り犯人の股間に蹴りつけた。
「~~~~~~~~~!!??」
さすが玉蹴り……腕の力が緩み、その隙に魔の手から脱出した。
「今だ!取り押さえろ!」
「あ……あのガキャア……」
突如鳴り響いた銃声と背中に突然の衝撃。
足を止め、ソッと背中に手を回すとヌルッとした感覚と指に付いた赤い液体。
間違いない……僕は撃たれたんだ……
それを理解したとたん、急に身体に力が入らなく……倒れてしまった。
ああ……撃たれたとこが熱くて……身体が寒い……
僕……死ぬのかな……警官が何か言ってるようだけど……もう何も聞こえない……
明日の……新作ゲーム……やりたかったな……
ここで僕の意識は……ブラックアウトした。
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