奏先輩

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奏先輩、あの時の会話、覚えててくれたんだ。 私はなんだか嬉しくなって、にこにこが止まらなくなった。 「美音(みおん)、いつまでニヤニヤしてるの。 気持ち悪いよ。」 智恵に言われて、がっくりする。 気持ち悪い? そんな言い方しなくても… 私は、奏先輩に貰った楽譜を丁寧に鞄にしまうと、オーボエのリード用の水を捨て、管の中の水分をスワブと呼ばれるお手入れ用の布で拭き取っていく。 楽器はきちんと手入れをしないといい音は鳴らない。 だから、私は毎日、丁寧に手入れをして片付ける。 十数時間後には、朝練でまた使うんだけど。 私はフルートの智恵と一緒に楽器を準備室に片付けに行き、帰路に就く。 「美音、良かったね。楽譜貰えて。」 歩きながら智恵が言う。 「うん。 ほんと、奏先輩の演奏はすごいんだよ。 できれば、レジストデータも欲しいけど、 そこまで図々しくお願いできないし、 音は自分で作るしかないかな。」 エレクトーンは1人オーケストラとも呼ばれるようにいろんな音やリズムを鳴らす事ができる。 それを曲ごと、フレーズごとにどんな音を鳴らすのか覚えさせておいたものがレジスト。 バイオリンだけでも何種類も音色があり、どの音色のバイオリンを使うのかは、編曲者のセンスによる。 右手に何の音を使い、左手にどんな音を持ってきて、足で弾くベースの音はどうするのか。 どんなリズムを刻み、どんな効果音を入れるのか。 市販のデータもあるけれど、自分で編曲すると、そのデータも一から自分で作らなければいけない。 勉強も部活も忙しいのに、そこに掛ける凄まじい労力と時間は、どうやって生み出しているんだろう。
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