0人が本棚に入れています
本棚に追加
彼は6月の上旬に、私の通う高校に転校して来た。
名前は、氷室零士。
鋭い目付き。
ぎゅっと引き結ばれた口元。
誰も寄せつけない、刺々しくも冷たいオーラ。
極めつけに、極度の冷え性なのか、体温が低く触ると冷たい。
ついたあだ名が、雪男。
誰も、彼と仲良くなろうとはしなかった。
勿論、私も。
ただ、委員長としての仕事で、ノートを集める時に話しかけるだけ。
ちなみに、その時の言葉も「どうぞ。」と一言貰うだけだ。
何の変哲も無い言葉なのに、まるで口から冷気でも吐いたかのように、冷たさを感じた事は大袈裟かもしれない。
つまりほとんど、会話らしいものはしていない。
きっかけは、ここだった。
委員会も、部活も無い日の放課後。
たまたま、この駄菓子屋を訪れた。
その日は真夏の如き暑さ、とでも言おうか。
とにかく、暑かった。
そもそも、暑いのは嫌い。
我慢出来ずに買い食いする事に決めた。
そして自販機の前で、動かない転校生を見つける事となる。
ガコン
自販機から、黄色い包みのアイスクリームを取り出した。
「新作の塩レモンにしたの?変わったものばっかり、頼むんだね。」
「火野さんは同じものばっかで、よく飽きないなと思う。」
「チョコミントこそ至高の味よ。」
「君とはわかりあえないな。」
ベンチで座って、アイスクリームを食べる。
他愛もない会話をし、笑う日々。
きっかけはわかるけど、何故毎日のようにここでアイスクリームを食べるようになったのかは、わからない。
たまたま放課後に寄れば、氷室君が既にいて、流れで一緒に食べる。
たまたまにしては、会いすぎな気もするけど。
彼と食べるアイスクリームは、美味しかった。
最初のコメントを投稿しよう!