アイスクリームと雪男

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彼は6月の上旬に、私の通う高校に転校して来た。 名前は、氷室零士。 鋭い目付き。 ぎゅっと引き結ばれた口元。 誰も寄せつけない、刺々しくも冷たいオーラ。 極めつけに、極度の冷え性なのか、体温が低く触ると冷たい。 ついたあだ名が、雪男。 誰も、彼と仲良くなろうとはしなかった。 勿論、私も。 ただ、委員長としての仕事で、ノートを集める時に話しかけるだけ。 ちなみに、その時の言葉も「どうぞ。」と一言貰うだけだ。 何の変哲も無い言葉なのに、まるで口から冷気でも吐いたかのように、冷たさを感じた事は大袈裟かもしれない。 つまりほとんど、会話らしいものはしていない。 きっかけは、ここだった。 委員会も、部活も無い日の放課後。 たまたま、この駄菓子屋を訪れた。 その日は真夏の如き暑さ、とでも言おうか。 とにかく、暑かった。 そもそも、暑いのは嫌い。 我慢出来ずに買い食いする事に決めた。 そして自販機の前で、動かない転校生を見つける事となる。 ガコン 自販機から、黄色い包みのアイスクリームを取り出した。 「新作の塩レモンにしたの?変わったものばっかり、頼むんだね。」 「火野さんは同じものばっかで、よく飽きないなと思う。」 「チョコミントこそ至高の味よ。」 「君とはわかりあえないな。」 ベンチで座って、アイスクリームを食べる。 他愛もない会話をし、笑う日々。 きっかけはわかるけど、何故毎日のようにここでアイスクリームを食べるようになったのかは、わからない。 たまたま放課後に寄れば、氷室君が既にいて、流れで一緒に食べる。 たまたまにしては、会いすぎな気もするけど。 彼と食べるアイスクリームは、美味しかった。
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