1人が本棚に入れています
本棚に追加
朝食を食べ終えて城を出ると、庭園ではパーティーの準備が進んでいた。
「ミリー、早く!早く!!」
城から庭園に出ると、走りだす王子、後を追いかけるミリー。
いつもの光景である。
「待ってください。走ると転びますよ。」
「おはよう、ミリー」
パーティーの準備をしているメイドに声をかけられた。
「おはよう、クレア」
走っていた足をゆるめて、ミリーも挨拶をする。
「今日も、エドワード王子とおいかけっこ?」
「そうなの。天気になって、よかったわね。」
クレアは悪気があって言ったわけではないのだろうが、遊んでいるようにしか見えないから仕方ない。
「ええ。じゃあまたね。」
クレアはそう言うと、手を振って仕事にもどった。
「またね。」
ミリーも、クレアに手を振って別れた。
気分を変えようと、パーティー会場を見回した。
すると、美味しそうな匂いが鼻孔をくすぐった。
あの匂いは、豚の丸焼きだわ。
丸々と太った豚が火に焼かれているのが見えた。
家族で市場へ行ったことを思い出す。
私の生まれ育った家は、花卉農園だ。街で市場が開くと、家族で花を売りに行った。
午前中は忙しいが、午後になると少し暇になる。
暇になってくると、「市場を見に行っていいわよ。」と母が言うのを、今か今かと待ちわびた。
母から小遣いをもらうと、弟と妹を連れて市場を見に行くのが楽しみだった。
市場には、たくさんの屋台や大道芸で賑やかだ。
弟や妹に、あれこれ買って欲しいとせがまれても、お小遣いが少ししか無かったので、たいした物は買ってあげられなかった。
けれど、見ているだけでもとても楽しかったのを思い出す。
父や母に弟妹、みんな元気だろうか。
その頃、王子は庭園のパーティー会場には目もくれず、門を目指して走っていた。
いけない、パーティー会場を見ていたら、王子と離れてしまった。
王子の姿が遠くの方に、小さく見えた。
ミリーは急いで、王子の後を追いかけた。
庭園の先には、マロニエの並木道が門まで続いていた。
マロニエの木には、白い花が咲いていて見頃なのだが、王子を追いかけている今は、暢気に見ているわけにはいかない。
私も必死に後を追うが、寝不足のせいなのか、今日は門までの距離が、いつもより遠く感じた。
王子が先に、門にたどり着いた。
「おはよう!トニーさん、門を開けて!」
王子は息をはずませながら言った。
「おはようございます、エドワード殿下」
トニーさんが、門番小屋から出てきた。
「船が見たいんだ。お願い。早く、開けてよ。」
王子は満面の笑みで、トニーさんに言う。
「殿下、お一人なのですか?エミリアさんはどうしました?」
笑顔のお願いも、いつもの事なので、トニーさんには通用しない。
「ミリー、遅い!」
遅れてミリーも、門に着いた。
「エドワード王子!一人で先に行かないで下さい!」
急いで走って来たので息が苦しい。
「だって、早く船が見たいんだもん」
「急がなくても大丈夫です!今、湖に行っても、まだ船は着いていないはずです。」
エドワード王子が言っている船とは、『フライングシップ』と言って、見た目は船の形をした、空を飛ぶ飛行船のことである。
もちろん、船なので水にも浮いて進むことも出来る。
私が知っていることは、蒸気船であることと、プロペラで空を飛ぶことくらいだ。
他の国も開発しているけれど、まだ飛ばせる物は出来ていないらしい。
現在、シュヴェリエ王国にしかフライングシップはないのだ。
3年前に、マクシミリアン王が造船会社に、フライングシップの制作依頼をした。マクシミリアン王とはエドワード王子のお父様だ。
ガーデンパーティーは、フライングシップの完成記念式典をするため、造船会社の従業員と家族を城に招待したものだ。
今日、到着するフライングシップを王様は『エドワード号』と名付けた。
船が王子の名前と同じだと知ると、王子はとても喜んだ。
そして、王子は船が来るのを、指折り数えて待っていた。
王子のガーデンパーティーへの参加は、すぐにOKが出た。
だが、城の外の湖まで、船を見に行くことは、なかなか許可が下りなかった。
私は、許可をもらいに、何度も王の臣下の所に行った。
「晴れれば良いが、屋外でのガーデンパーティーは、雨が降れば中止になる。
湖に船は来るが、雨の中、湖まで船を見に行って、王子が風邪をひいたらどうするのだ。」と王の臣下に言われた。
残念だが、雨が降った時は、王子の外出許可は下りなかった。
王子が、何日も前から待ちわびて、天気を気にしていたのは、そう言う訳なのだった。
もうすぐ、完成したフライングシップが、城の前の湖に到着する。
最初のコメントを投稿しよう!