0.ガーデンパーティー -序章-

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朝食を食べ終えて城を出ると、庭園ではパーティーの準備が進んでいた。 「ミリー、早く!早く!!」 城から庭園に出ると、走りだす王子、後を追いかけるミリー。 いつもの光景である。 「待ってください。走ると転びますよ。」 「おはよう、ミリー」 パーティーの準備をしているメイドに声をかけられた。 「おはよう、クレア」 走っていた足をゆるめて、ミリーも挨拶をする。 「今日も、エドワード王子とおいかけっこ?」 「そうなの。天気になって、よかったわね。」 クレアは悪気があって言ったわけではないのだろうが、遊んでいるようにしか見えないから仕方ない。 「ええ。じゃあまたね。」 クレアはそう言うと、手を振って仕事にもどった。 「またね。」 ミリーも、クレアに手を振って別れた。 気分を変えようと、パーティー会場を見回した。 すると、美味しそうな匂いが鼻孔をくすぐった。 あの匂いは、豚の丸焼きだわ。 丸々と太った豚が火に焼かれているのが見えた。 家族で市場へ行ったことを思い出す。 私の生まれ育った家は、花卉農園だ。街で市場が開くと、家族で花を売りに行った。 午前中は忙しいが、午後になると少し暇になる。 暇になってくると、「市場を見に行っていいわよ。」と母が言うのを、今か今かと待ちわびた。 母から小遣いをもらうと、弟と妹を連れて市場を見に行くのが楽しみだった。 市場には、たくさんの屋台や大道芸で賑やかだ。 弟や妹に、あれこれ買って欲しいとせがまれても、お小遣いが少ししか無かったので、たいした物は買ってあげられなかった。 けれど、見ているだけでもとても楽しかったのを思い出す。 父や母に弟妹、みんな元気だろうか。 その頃、王子は庭園のパーティー会場には目もくれず、門を目指して走っていた。 いけない、パーティー会場を見ていたら、王子と離れてしまった。 王子の姿が遠くの方に、小さく見えた。 ミリーは急いで、王子の後を追いかけた。 庭園の先には、マロニエの並木道が門まで続いていた。 マロニエの木には、白い花が咲いていて見頃なのだが、王子を追いかけている今は、暢気に見ているわけにはいかない。 私も必死に後を追うが、寝不足のせいなのか、今日は門までの距離が、いつもより遠く感じた。 王子が先に、門にたどり着いた。 「おはよう!トニーさん、門を開けて!」 王子は息をはずませながら言った。 「おはようございます、エドワード殿下」 トニーさんが、門番小屋から出てきた。 「船が見たいんだ。お願い。早く、開けてよ。」 王子は満面の笑みで、トニーさんに言う。 「殿下、お一人なのですか?エミリアさんはどうしました?」 笑顔のお願いも、いつもの事なので、トニーさんには通用しない。 「ミリー、遅い!」 遅れてミリーも、門に着いた。 「エドワード王子!一人で先に行かないで下さい!」 急いで走って来たので息が苦しい。 「だって、早く船が見たいんだもん」 「急がなくても大丈夫です!今、湖に行っても、まだ船は着いていないはずです。」 エドワード王子が言っている船とは、『フライングシップ』と言って、見た目は船の形をした、空を飛ぶ飛行船のことである。 もちろん、船なので水にも浮いて進むことも出来る。 私が知っていることは、蒸気船であることと、プロペラで空を飛ぶことくらいだ。 他の国も開発しているけれど、まだ飛ばせる物は出来ていないらしい。 現在、シュヴェリエ王国にしかフライングシップはないのだ。 3年前に、マクシミリアン王が造船会社に、フライングシップの制作依頼をした。マクシミリアン王とはエドワード王子のお父様だ。 ガーデンパーティーは、フライングシップの完成記念式典をするため、造船会社の従業員と家族を城に招待したものだ。 今日、到着するフライングシップを王様は『エドワード号』と名付けた。 船が王子の名前と同じだと知ると、王子はとても喜んだ。 そして、王子は船が来るのを、指折り数えて待っていた。 王子のガーデンパーティーへの参加は、すぐにOKが出た。 だが、城の外の湖まで、船を見に行くことは、なかなか許可が下りなかった。 私は、許可をもらいに、何度も王の臣下の所に行った。 「晴れれば良いが、屋外でのガーデンパーティーは、雨が降れば中止になる。 湖に船は来るが、雨の中、湖まで船を見に行って、王子が風邪をひいたらどうするのだ。」と王の臣下に言われた。 残念だが、雨が降った時は、王子の外出許可は下りなかった。 王子が、何日も前から待ちわびて、天気を気にしていたのは、そう言う訳なのだった。 もうすぐ、完成したフライングシップが、城の前の湖に到着する。
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