0.ガーデンパーティー -序章-

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王子と門の外へ出る時には、護衛も一緒だ。 事前に城を出る時間を知らせておけば、門には護衛が先に来て待っている。 だが、今日は王子が予定の時間より早く門に来てしまったので、警護がくるのを待たなければならなかった。 「すぐに来るように呼びますから、ちょっと待っていてくださいね。」 「うん、ぼくまっているから、早くきてって言ってね」 トニーさんは門番小屋に入ると、無線で護衛を呼んだ。 しばらく待っていると、護衛が来た。 「お待たせしました。エドワード殿下、門を開けますよ。」 トニーさんが、お城の門の扉を開けた。 王子は門の扉が開くと、すぐに走り出そうとしたが、ミリーは王子の腕を掴んで引き留めた。 「エドワード王子。城の外では手をつなぎましょう」 護衛がついているとはいえ、城外で、王子を見失ってしまえば大変だ。 「うん」 王子は素直に言うことを聞いて、ミリーの差し出した手をつないで歩いた。 高い城壁に守られていない、門の外は緊張する。護衛に守られていたとしても、どこからか襲われるかもしれないので危険だ。 護衛は、黒のスーツに仮面という姿だ。 仮面は、頭を守る為と顔を隠す役割もある。 王族の人達が護衛に対して、情が移らないように、顔を隠していると聞いた。 護衛は王族の人達の身を守って、最悪死ぬこともあるからだ。 そのため、少々残酷ではあるが、孤児を護衛にしているのだそうだ。 今日は、王と王妃も湖の船着き場まで出て来て、造船会社の人たちの出迎えをする。 城の臣下たちは、王と王妃が湖まで出ていくことに反対した。 だが、王様は湖まで行くと譲らなかった。結局、臣下は王様の言うことに、従うしかなかった。 門の外へ出ると、ゆるい下り坂になっていて、途中から道は、湖に行く道とシゥヴェリエ王国の都市シクへ行く道に分かれる。 湖へ行く道をしばらく歩いて行くと、湖への道は石段に変わる。 王子は石段を、一段一段ピョンピョンと飛びながら下りていった。 ピョンと跳ねて降りるたびに、手を引っ張られる。 湖の船着き場に王子とミリーは着いたが、フライングシップはまだ到着していなかった。 「船いないね。ミリー、ほんとうに来るよね?」 王子は船が来ていないので、ガッカリしていた。 「船が来るには、まだ早いと言ったではないですか。大丈夫、もうすぐ来ますよ。」 「もうすぐ?もうすぐっていつ?」 「もう少しですよ。あそこの、四阿(あずまや)の中に入って待ちましょう。エドワード王子」 湖畔から少し離れたところに、休憩が出来る四阿があった。 四阿の中に入ると、日陰になって涼しかった。湖からは心地よい風が吹いてきた。 長椅子に王子と並んで座ると、湖を眺めながら船を待った。 最初はおとなしく座っていた王子は、すぐに飽きてしまった。 「ミリー、船はまだ?」 ミリーから返事はかえってこなかった。 王子は椅子から立ち上がり、ミリーの肩を揺らしてみる。 「ねぇ・・ミリー・・・寝ているの?もー起きてよ!」 心地よくなって寝てしまったミリーには、王子の声も届かなかった。 ミリーの髪が風で揺れていた。 首がガクンと落ちて、ミリーが目覚める。 「よだれが出ているぞ」 「え!やだっ!?」 あわてて手を口に当てるが、よだれは出ていなかった。 「ひどい、誰よ!」 クククッ、と笑い声が上から降ってきた。 見上げると、笑っていたのは護衛だった。 いつも黙っていて怖そうにしている護衛が、笑っているなんて、表情は見えないけれど・・・。 「あーーーー!エドワード王子!!!」 私は、真っ青になって大声で叫ぶ。王子がいない。 「心配するな。エドワード殿下なら、陛下と王妃様と一緒にいる」 警護は湖へ指をさして言いながら、笑いをこらえていた。 指先に顔を向けると、湖の船着き場に王子はいた。 王子が無事で安心したが、恥ずかしさで、私の顔は真っ赤になった。 「もう少し、あのままにしてあげたら良いのではないか」 王子は、王様と王妃様と一緒で、とても嬉しそうな姿が見えた。 「そうね。あんなに喜んでいるエドワード王子を見るのは初めてかもしれないわ」 まだ親に甘えたい年頃なのに、両親と一緒にいられず、寂しい思いをしていたのかもしれない。 『ねぇ、お願いがあるの、ミリーを見てくれる? 僕は父上と母上のところに行くから、もう少し寝かせてあげて。お願いだよ。』 そう言うと、王子は四阿を出て、両親のもとへと走って行った。 『仰せのままに、殿下』 「私、どれくらい寝ていたのかしら?」 ミリーは、警護に聞いた。 「数分だ。」 数分でも寝られたおかげで、眠気がとれて頭がスッキリした。 「そう・・・。私はエミリア・フィール。あなた名前は?」 「我々に名は無い」 護衛は素っ気なく答える。 「なによ、名前を教えたくないの?」 護衛は仮面を付けているから、顔がわからないのだ。困らないのだろうか。 「・・・名前は警護になると捨てられる。だから無い」 「じゃあ、警護同士では、なんて呼び合うの?」 「コードナンバーがある」 「うそ、どうして?コードナンバーで呼ぶなんて、おかしいわ。それに、護衛になる前は、名前はあったでしょう?」 「名前が無くても、間に合っている。」 「いいわ、私が名前を付けてあげる。 うーん、そうね・・・ロバートはどうかしら?」 「好きにすればいい」 「ふふっ。決まりね」
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