雨宿りびより

16/45
前へ
/252ページ
次へ
あまり時間をかけるのも申し訳ないと思い、洗面台に髪の毛を落としていないかチェックし、洋服をハンガーにかけ浴室に干すと急いで洗面所から出た。 廊下を進み奥に入って行くと、鈴太郎が声をかけてきた。 「服、かけた?」 「はい。服借して頂いてありがとうございます。」 「浴室乾燥スイッチ入れてくる。」 彼が立ち上がると衣緒はドキッとした。よく見ると彼の部屋着は借りた部屋着と色違いだったのだ。ベージュのTシャツにダークブラウンのハーフパンツ、胸ポケットとサイドラインの柄はカーキにオフホワイトのボタニカル柄。 ───ペアルック・・・。 自分の心の声が呟いたその言葉に胸がざわざわした。 鈴太郎は戻ってくるとその場で立ったままの衣緒に声をかけた。 「座って。夕飯は食べたよな?」 「はい。会社で適当に。」 「麦茶と水と、あったかくてよければハーブティーもあるけど。」 「お、お構いなく。」 いつもにも増して小さな声しか出なかった。 「何がいい?」 再び尋ねてくる。 ───葉吉さん、ハーブティー飲むんだ・・・。コーヒーのイメージだったな。ハーブティー好きだけど、手間かかりそうだから・・・ 「・・・麦茶を、お願いします。」 「うん。座ってて。」 ───俺がブレンドしたハーブティー飲んでほしかったかも・・・まあ、暑いしな。・・・にしても部屋着、白っぽいのばかりだから一番透けなそうなグレーを渡したけど、やっぱりぶかぶかで、首周りが開いちゃってるな・・・。気にしてるかな。あんまり見ないようにしないと・・・。でもなんか小学生みたいでかわいいよな・・・。 鈴太郎は彼女に背を向けて冷蔵庫を開けながら、胸が(うず)くのを感じた。 衣緒は彼が手で示したグリーンの丸クッションに座ると、部屋の中を見て思わず声が出そうになった。
/252ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2010人が本棚に入れています
本棚に追加