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「・・・素敵なお部屋ですね。建物自体も素敵だし。」
「ここのオーナーご夫妻の息子さんが建築家なんだ。こういう雰囲気だから住んでるのはほとんど女性みたいだけど。いい歳した男が一人でこんなとこ住んでるなんてちょっとあれだよな。」
彼は恥ずかしそうに言った。
「そんなことないです。男性とか女性とか関係ないです。こんな素敵なお家羨ましいです。」
衣緒は静かだけれど力を込めた話し方で、まっすぐに見つめて言ってきた。
「・・・そうかな。」
鈴太郎は照れ臭くてうつむいてしまった。
「それに、落ち着くんです。・・・その、このお部屋うちに似てて。」
「え?」
彼は思わず顔を上げて彼女をじっと見つめてしまった。
「いえ、葉吉さんのお部屋の方が広いし、ずっとおしゃれなんですけど・・・その、あの時計とか切り株のスツールとか、あそこのガーランドとか、うちにも同じのがあるし、全体的に雰囲気が近くて、すごく・・・私が好きなテイストのお部屋だから。」
彼の視線がくすぐったく、しどろもどろになってしまったので、衣緒は自分の言いたいことが伝わったのか自信がなかった。
「・・・そっか。」
「はい・・・。」
しばらく二人の間に沈黙が流れたが、それは気まずさを感じるものではなく、嬉しさをかみしめるような心地良いものだった。
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