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衣緒がテーブルの上に目線を移すと、広げられた雑貨のカタログが目に入った。近くにはチラシや封筒もあった。先程ポストから取り出した郵便物を自分が着替えている間に見ていたのだろう。
「・・・あの、そのカタログ・・・。」
「これ?仕事のためのリサーチと趣味を兼ねてて・・・。」
彼は彼女にも見やすいようにカタログの向きを変えてくれた。
「このテイッシュボックス、かわいいですね。ティッシュって四角いイメージがあるから、 だ円形って柔らかい感じがしていいですね。」
「木目調なのがまたいいな。このデザインだと、家具に溶け込むけど、存在感はちゃんとある感じだ。」
しばらくそのページを眺めて、鈴太郎が次のページをめくった。
「あ・・・これ。」
「これいいな。」
その途端、二人で同時に木の形のランプの写真を指差していた。
そして同時に顔を上げ目線が合い、かなり近くでカタログを見ていたことに気がついてしまった。
「・・・。」
「・・・。」
また心地良い沈黙が流れた。
「・・・これ、カバーを被せたままだと木の形のランプで、カバーを外すと動物とか植物の絵が壁に浮き上がるんですね。掃除もしやすくて良さそう。」
「北欧っぽい絵がいいな。サイズはどのくらいかな・・・。」
二人はそうやってカタログを見ながら、この商品は部屋のここに置きたい、だとか、この商品の白があったら買ったのに、だとか、ちょっと値段が高いな、300円ショップで似たものが売っていた、等と雑貨談義に花を咲かせていた。
不思議と仕事の話にはならず、プライベートの話をしたことがほとんどないのが嘘みたいに打ち解けて話していた。
「あー、彩木さんと買い物に行ったら楽しいだろうなぁ。」
鈴太郎がさらり、と言った。屋上で植物を見ていた時のような柔らかい表情だった。
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