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雨と風の音が大きかったし、声をかけられるなんて意識していなかったものだから、近くに停まった車から声をかけられていることにすぐには気がつかなかった。
「・・・あ、お疲れ様です。」
会社の上司の葉吉鈴太郎が車の窓を開けてまっすぐにこちらを見ていた。
───こんな姿を見られるとは・・・。さぞかしメイクもとれていることだろう・・・。
「乗って。」
鈴太郎はいつもの静かな口調で言った。
「え?」
───ノッテ?あ、イタリア語の"notte"?「夜」って意味。確かに今は夜だ。あ、"Buona notte."って言ったのかな?「おやすみ。」って・・・。
思考を巡らせていると、鈴太郎は先程と全く変わらぬ静かなトーンで言葉を発した。
「濡れるから、早く乗って。」
衣緒はやっと彼の言葉の意味を理解した。
「あの、もう濡れてますし、駅近いから・・・。」
寒い季節でもないですし、とつけ加えようとすると、
鈴太郎は車から降りまるで雨など降っていないかのようにスッと歩いてきた。
衣緒が驚いていると歩道側の助手席のドアをあけ、彼女をそこに押し込み、ドアをパタンと閉めた。
「え?・・・を!?あの!?」
車内から訴える衣緒の顔を見ることもなく、出て来た時と同じようにスマートに運転席に戻ってドアを閉めた。
続いてごく自然な動きで体を伸ばして助手席のシートベルトを締めると、自分もシートベルトをし、車を発進させた。
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