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───俺はあのミーティングで今城さんが評価されて何だかモヤモヤした。確かに彩木さんは契約社員でアシスタント。ある意味社員の一部、右腕で、フロントに立つのは社員だ。何かあった時の責任も社員にある。でも今城さんは普段から彼女に頼り過ぎではないのか・・・。他の社員が自分でやっている仕事を彼女にやってもらったり、仕事外でも物を借りたりしていた。プレゼン用スライドの作成を頼むにしても、他の社員は資料集めやグラフ作成を手伝ってもらったり、だいたいの文章をテキストファイルの形で渡してスライドの形にしてもらったりしている。今回だって、最低でも企画をきちんと練ってメモ書きでも口答でもいいから伝えて、スライドを作ってもらうべきだった。
「ごめん。責めてるわけじゃないんだ。」
今にも目のダムが決壊して涙が溢れ出しそうな顔で俯く彼女を見て思わず頭を撫でそうになったが、手を引っ込めた。
───俺の中に、消滅したはずの「コンプライアンス」の欠片が残っていたのか・・・?
「・・・俺は彩木さんのこと見てるから。」
頭を撫でる代わりに気持ちを言葉にして伝えた。
「・・・。」
彼女の潤んだ目が大きく開く。
「あ、いや、チームメンバー全員のこと見てるから。俺も泉さんも、管理職として。彩木さんが頑張ってるの、泉さんもちゃんとわかってるよ。だから無理して余計な仕事までしなくてもいい。大変な時は相談して欲しいんだ。一人で抱え込むなよ。」
その言葉についに衣緒の目から、ぽろり、と涙がこぼれた。
「も、うしわけ、ありません、でした・・・・。」
流れ始めた涙は次々と目からこぼれ落ち、頬を伝っていく。
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