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「ごめんなさい!」
衣緒は即座に離れて謝ったが、彼はいつのまにか目を閉じていて反応がなかった。
───あれ葉吉さん寝てる・・・私よりも寝つくの早い・・・。
「私の世界記録が・・・。」
記録などどうでもよかったが混乱しており無意識にそんなことを口走ってしまった。
───涙拭かれたのとは桁違いのドキドキだよ・・・。
その場に座り込んで呆然としてしまいそうだったが、とにかくソファにかけてあったタオルケットを鈴太郎にかけた。
「おやすみなさい 。今日は申し訳ありませんでした。ありがとうございました。楽しかったし嬉しかったです。」
言い終わって一礼し顔を上げると、思わず彼の顔を見つめてしまった。
───葉吉さんの寝顔を見ているなんて変な気持ち・・・。なんか贅沢っていうか・・・。倒れ込んじゃった時、葉吉さんまだ意識あったのかな・・・。もし覚えてたら顔合わせられない・・・。そうだ、忘れるように念を送っておこう。
「ふぬうううぅぅ、ひょおおおぉぉ、ほれえええ、とぁっ!」
───うん、きっとこれで大丈夫。気持ちを切り替える為に勉強でもしよう・・・。
テーブルの向こう側に戻るとリュックからイタリア語の参考書とノート、不要な紙を切ってクリップでまとめたメモ紙、ペンケース、電子辞書、それから音楽プレイヤーを取り出した。
「・・・テーブル、お借りします。」
眠る鈴太郎に再び頭を下げてからイヤフォンを耳に入れると、陽気なイタリア語の会話が流れてきた。カップルの旅行先での会話らしい。素晴らしい景色に感動し、どこで写真を撮ったらいいだろうと相談している。
しかし5分もせずにテーブルに突っ伏して寝てしまった。
少しして鈴太郎が目を開けた。
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