雨宿りびより

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仕事の方はというと、決して器用な方ではなく、いや、むしろ不器用で、仕事を頼むとこちらが想定していたよりもはるかに時間がかかる。それでも期限に間に合わないということはなく、仕事はとても丁寧で完成度が高い。 そんな彼女だが、他の人なら嫌がるような、手がかかるのに短納期の仕事も引き受けていた。ただ、やはり要領はよくないので夜遅くまで残業をしていて、よく一緒に残っていた。 疲れを見せることもなく、真剣にパソコンを見つめ、 時々、残っている社員達にデスクに忍ばせているらしいお菓子を配ったりしていた。 うちの部署は俺の他に社員が4名、そして契約社員の彩木さんと、派遣社員が1名。 社員はクライアントやメーカー、自社工場との打ち合わせの他、展示会に行ったり、吉祥寺にある店舗に行く為に外出したり、来客や社内ミーティングで席を外していることが多い。 座席は俺がいわゆるお誕生日席というやつで、その前に俺から見て縦に左右3個ずつデスクが並んでいる。その左の列の一番後ろに彼女は座っていた。 社員達がいないと、彼女の表情がよく見えた。 集中していて真剣な横顔、 仕事を終えたのか、何かを思いついたのかはわからないが「パァッ」と喜ぶ横顔、飲み物を飲んだりお菓子を食べたりして少しリラックスした横顔。 普段人と話す時の彼女は表情に乏しかったので、デスクでの様々な表情が見られると嬉しく思った。
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