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エピローグ
私はラジオが流れる車内で、軽くパニックになっていた。ポケットの木片が、いつの間にか数センチ程の枝になっていたのだ。
気味が悪くなって、私は窓からそれらを放り投げた。まさかと思い鞄の中のハンカチを見てみると、綿の塊に、同じく枝のようなものが付いていた。
私はそれも車道にポイ捨てした。そして改めて、とんでもないことが起きていると実感したのだった。
もし他にも私の涙が触れた場所があれば、それはどこまでも蘇ってしまう。私は会場での行動を慎重に振り返った。
「あっ、お焼香……」
私は思わず車内で声を上げた。涙で濡れた手で、香を触ってしまった。あれが蘇ったら……。
私は急いでスマホで『お焼香 原料』と検索する。スマホは数秒で、答えを見つけ出してきた。
ちょうど赤信号になったので、私は両手を上げて、助手席に置いたスマホを覗き込んだ。スマホに涙が触れないように、それらしきサイトを爪の先で探す。
目的の情報は、すぐに見つかった。そして私は、絶望した。
『サンダルウッド:インド原産の常緑高木で……』
『沈香:東南アジア原産の高木で……』
『クローブ:モルッカ諸島原産の常緑高木で……』
私は震える手で、車のテレビ画面を弄った。ラジオを消して、テレビのチャンネルをNHKにセットする。テレビ画面は、様々な木々に侵略され、ジャングルのようになった会場を映し出した。
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