捜査一課 奥薗浩一

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「『遠藤君』を見つけたのは君だとして、他に一緒に発見した人は?いない?ああ、そう。では、見つけた時には『すでに我々が見た状態のまま』と」 「はい、そうです……」  今思えば、万が一の可能性に賭けて仲間と共に引き上げてみるべきだったかも知れない。だが、その時は怖さが先に立って近寄る事すら出来なかった。  『何故、助けようとしなかったのか』と言われれば、返す言葉もない。 「ふむ……了解。ま、それ以上はないね」  刑事は持っていた手帳をパタンと畳んだ。 「あと、何かあれば。例えば『心当たりがある』とか『何か見た事を思い出した』とかあれば、連絡をくれたまえ。ここだ」  刑事が差し出した名刺には『刑事部 捜査一課 奥薗浩一』と書かれていた。 「捜査一課……」  名刺に眼を落としながら、香坂が思わず呟く。 「『捜査一課』って、殺人事件とかを扱う部署ですよね?」 「うん?まぁな。けど……」  引き返そうとしていた奥薗が足を止める。 「別に『だから』と言って他意はねぇよ。たまたま、俺らが来ただけの話だ。何しろ普段は『ヒマ』な部署だからよ。そこはあまり深く考えなさんな。ああ、それとな。一応それでも後で鑑識が来るんでKEEP OUTのテープが取れるまでは『現場の階段には近寄るな』と仲間に言っといてくれ」  そして「じゃあな」と言い残して、奥薗は去って行った。  「……。」  『心当たりがあれば』と奥薗刑事は言っていたが。  『逆の意味』でなら香坂にも『心当たり』はある。  つまり、遠藤先輩が『ハートの強い人間である』という心当たりだ。  先程までパニックになって頭が廻っていなかったが、どう考えても先輩が自分で死を選ぶようには思えなかった。  深く考えれば考えるほど、その疑問は大きくなっていく。  無論、自分たちには計り知れない『何か』があれば話は別だろう。例えば家庭で何かトラブルを抱えているとか、彼女と上手く行ってなかったとか……けど、普段から気さくに会話をしている遠藤先輩から『そうした暗い話』は何も聞いた覚えがないし、打ち込まれるのも別に今回が『初めて』というわけでもない。そうした時にも、常に前向きな姿勢を失わないのは、遠藤先輩の魅力なのだ。  捜査一課か……。  香坂の頭に『殺人』という二文字が浮かび上がる。 「まさか……な」  その恐ろしい想像に、思わず首を振る。  そんな事はあるまい。あの人望がある遠藤先輩が誰かから恨みを買うとは想像しにくいし、チーム関係者は全員がベンチに居たのだ。そう、遠藤先輩を除いて全員が! それに、身長一九五センチ、体重九○キロを超える体格の男と格闘して『殺す』のは容易ではあるまい。  ならば、やはり『それ』は無いのか。  香坂は慌ててやって来た取材陣から逃げるようにして、学園に戻るバスへと走って行った。  
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