とある球児の自殺

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とある球児の自殺

 その日、新聞の一面に衝撃的な文句が踊った。  『高校球児、試合中に自殺か!?』  それは、とある蒸し暑い地方球場。  全ての始まりは、夏の全国大会出場を賭けた、その決勝の舞台だった。   「くそっ!……やはりダメか!」  第一帝政学園の監督、高砂が眼の前のベンチを蹴り上げる。 忌々しそうに見つめる相手ベンチでは、連続タイムリーヒットで生還した選手達がハイタッチを交わしながら盛り上がっていた。 そして、それとは対照的にマウンドでは自軍の『絶対的エース』が膝に手をつき、肩で大きく息をしている。 内野陣も、異様な熱気に蒸せかえるグラウンドに呆然と立ち尽くしていた。 「……何とか復調してくくれば、と思ったがな。だが五回表で九失点は痛すぎる!……仕方ない、香坂、香坂はイケるか?!ブルペンに確認しろ!」  苦々しく、吐き捨てるように伝令へ指示をする。 「……香坂! 肩、行けるか?!」  伝令係の先輩が、二年生投手・香坂のところに走って来る。 「大丈夫!何とかします!」  急ピッチで投球練習をしていた香坂が、大粒の汗を垂らしながら頷いた。  無論、まだ二年生の香坂にとって決して『怖くない舞台』ではない事は確かだが……。  くっ!……『万が一』と思って早めに投球練習を開始したが……まさか此処まで早く交代になるとは!   香坂の心臓が早鐘のように鼓動を打つ。  よりよって決勝の舞台での緊急登板である。香坂も内心、焦りがなかったわけではない。大きなビハインドなのが、せめてもの『思い切っていける』材料と言えようか。 「……監督、どうにか行けるようです!GOですか?!」  伝令が駆け足で戻ってくる。 「……交代だ! 遠藤に下がるよう伝えろ。普段なら一六○キロの豪速球を投げるというのに、今日の最高球速はたったの一三八キロ……いくら連投の疲れとは言え、もう見てられん!」  ドカリ!と、大きな音を立てて高砂がベンチに座り込む。 《……第一帝政学園、選手の交代をお知らせします。ピッチャー、遠藤君に代わりまして香坂君……ピッチャー、香坂君。背番号一一……》 場内アナウンスに、平日ながら五割方埋まった客席から「おおっ!」と、大きなどよめきが起こる。 「ち……折角『未来のスーパースター』遠藤を見に来たのによ。仕方ねーな」 プロ野球のスカウトとおぼしき男達が、ため息をついてスピードガンを鞄に仕舞いだした。
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