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捜査一課 奥薗浩一
サイレンと供に警察がやって来たのは、救急車とほぼ同時だった。
試合途中で消えた『遠藤』は首に巻き付けられたロープで、踊り場の手すりからぶら下がっていた。
力無くだらりと、顔を右に傾げながら。
警官がそれを指差して救急隊員に「あれは助かる見込みがあるか」と聞いたが、救急隊員は悲しげに首を横に振り「少なくとも通報から二分以上経ってますので」とだけ答えた。生死の判断は医師で無ければ出来ないからだ。
警察は状況証拠となる写真撮影だけを先に行い、それから消防から借りた長いロープで遠藤の身体を結わえ、そのままゆっくりと階下へと下ろした。持ち上げるより、下ろす方が早いからだ。
そしてそのまま、チームメイトや関係者達の見守られながら『遠藤』はストレッチャーに載せられて救急車へと消えて行く。
その顔は頭から被せられた白いシーツで覆われて、見る事は出来なかった。
「あー……君が香坂君かな?香坂ジュイチ君」
捜査員の男が、香坂を呼び止める。白髪交じりの、ベテランぽい雰囲気の刑事だった。
「え、は、はい。僕は香坂ですが?」
呆然としていた所に急に呼び止められ、香坂が面食らう。
「通報をくれたキャプテンに『君が第一発見者だ』と聞いたものでね。詳しい話を聞きたいんだが。今、少しいいかな?」
大きめの手帳を広げ、何やら書き込みながら刑事が尋ねる。
「ええ……分かりました」
事情聴取、ってヤツか。香坂は、鼻をつくタバコのヤニ臭さに少し閉口した。
「まぁ……粗方の話はさっき監督さんに聞いたんでね。それが『不調』のせいなのか『責任感』なのか、それとも全く別の原因なのかは我々には分からんけども」
刑事が、階段の上を見上げながら溜息をついた。
「ま……自殺、と見ていいだろうな。試合内容も良くなかったと聞くし。本来は良い投手だったって?」
「第一帝政学園の『遠藤シゲル』って知りませんか?」
ムッとしたように香坂が問い返す。
「最高球速一六二キロの、今大会最高投手って呼び声高かった先輩なんです!」
「……スマンな。高校野球は興味なくてね。だが、今日は『良くなかった』?」
「ええ、そうです」
馬鹿にされたようで、香坂は短く返した。
「最後に姿を見たのは『五回表』?ダッグアウト裏に消えてからは誰かが見たという話は聞いてない?」
刑事は意に介していないようだ。
「……試合中は皆、グラウンドに集中してますから。特に七回にはこっちも打線が繋がって5点を返したので。代打・代走で何時、誰がグラウンドに呼ばれるか分からない状態でしたし」
「なるほどね……目撃者なし、と」
……仕事とは言え、だ。人がひとり『死んだかも知れない』というのに、よくもまぁこうも淡々としていられるものだと思う。
香坂は、刑事の態度に苛つきを感じていた。
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