夏華火 -影-

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夏華火 -影-

一人分の足音がテラスの床を踏む。 その家の近くには建物は無く、息をのむほど素晴らしい眺めであった。 「綺麗だなぁ…。」 「うん…。」 暗い室内から現れたもう一人が、隣に寄り添うように浮かんでいた。 「今年も一緒に見れてよかった…。」 「そうだね…。」 命日は花火大会の日で、毎年こうやって花火を見に来る。 今日だけが会える日なのだから。 「…そっちで…うまくやれてる?」 「なんとかね…。毎日色々大変だけど。」 「そっか…無理は…しないでね。」 無理をして命を落としてしまった本人の言葉は、変に心に刺さる。 「大丈夫。まだやらなきゃいけないこと、終わってないし。」 「…うん。頑張って…。」 独りの寂しさが痛いほど伝わって、最後の花火の光が揺れる。 「花火…終わっちゃったね。」 「…あっという間…だったなぁ…。」 光が消えた闇に溶けてしまわないか、不安がよぎる。 そっと触れた手には、生きている人間の体温は感じられない。 「冷たいな…。」 「仕方がないじゃん…。」 「そろそろ中に入った方がいいかな。」 「うん。」 ひんやりと冷たい手が少しでも温まればいいなと願って。 「今日、泊まっていかないの?」 「そうはいかないでしょ。また来るよ。」 「気を付けてね。」 「うん。おやすみ。」 「おやすみ。」 来年は笑顔で会いに来ると心で誓いながら、月の淡い光の中へ歩き出した。
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