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『ロミオとジュリエット』 1
「人が人を嫌いになる一番の理由?分からないわ。そもそも、嫌いになることなんてあるのかしら?……でも確かにいえることは、人は愛し合って生きているってことよ。」
そう答えて、彼女は本棚に並ぶ本を指でなぞる。欲しい本が見つかったのか本の背に指をかけて引っ張り出す。嬉しそうに表紙を確認した彼女はそのまま本を僕の前へ突き出す。
「はい進藤くん、『ロミオとジュリエット』。これだって愛の物語よ。最後の最後まで、ロミオとジュリエットは愛し合ったのよ。」
「いや、それ二人とも死んでるじゃん。愛し合って死んでるじゃん。悲劇のラブストーリーでしょ。」
僕は本を片手で受け取って、表紙も見ずに貸出カウンターへ向かう。文化祭の演劇に選んだ『ロミオとジュリエット』の台本を書くため、文化祭実行委員になった二人で原本を借りに図書室まで来ていた。
「人が人を嫌う理由はいくらでもあるじゃん。性格、見た目、体臭や仕草なんかでも簡単に嫌う人は嫌うし。磯田さんだってクラスに一人くらいいるでしょ、嫌いな人。ほら、サボり魔の佐藤とか。今回の文化祭実行委員だって佐藤がサボって文化祭参加しないとか言い出すから磯田さんが代わりにやってるんだし。」
磯田さんはそもそも文化祭実行委員ではない。委員会をクラスで決めるときに率先して委員長に立候補した磯田さんと違って、しょっちゅう学校に来ない佐藤はその日も登校せず、余った文化祭実行委員になし崩し的に就いただけ。当然、職務は全うしない。一人で文化祭のあれこれをやらされることになった僕を見かねた先生が委員長である磯田さんに手伝うよう指示したのだ。
「まあ、僕はそのおかげで助かってるんだけど(……ただ、そのせいで今日はこんな目に合ってるけど)。」
貸出カウンターまで辿り着いた僕は本を貸出カウンターに座る女生徒に渡す。僕の学校では図書室の貸し出しは図書委員が交代で担当する。図書委員は委員長に次ぐハズレ委員だ。
「貸出お願いします。」
「あの、学生証は?」
「へ?」
目の前に座る生徒は渡した本を持ったまま、僕のことを困った顔で見てくる。
「貸し出しには学生証が必要なのよ、進藤くん。図書室での貸し出し、初めてなのね。」
磯田さんが横から教えてくれる。学生証?そんな面倒くさいルールがあったのか。僕は学生服のポケットに入れっぱなしにされていた学生証を取り出して、貸出担当の生徒に手渡す。図書委員だけあって慣れた手つきで貸出はスムーズに終わった。本をわざわざこちら側が下になるように反転させて、僕の手元に差し出される。
「ありがとう、宮内さん。図書委員がんばってね。」
僕が会釈をする前に磯田さんが女生徒にお礼を言う。女生徒に微笑んでから、磯田さんは図書室を真っ直ぐに出た。僕は本を受け取って、磯田さんに追いつく。
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