『ロミオとジュリエット』 1

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 教室に着くと、僕は借りた本を磯田さんに渡した。磯田さんは本を机において、僕に目を合わせた。  「進藤くん、今日はありがとう。助かったわ。文化祭、一緒にいいものにしましょうね!」  磯田さんはまだ委員長としての仕事があるらしく、職員室へと向かった。僕は荷物をまとめて教室を後にする。  僕は教室を出て、真っ直ぐに廊下を歩いた。二階の端にある僕の教室は校舎の昇降口に続く階段から一番離れたところにある。昇降口には下駄箱もあるので、登校する生徒は必ず昇降口から出入りをすることになる。だから、僕のクラスは毎朝他のクラスの生徒より長く歩かされる損なクラスだ。僕は他クラスの教室を横目に目的の階段までたどり着く。  「おう、進藤。この時間にお前がいるなんて珍しいな。何か用でもあったんか?」  階段だけを見ていた僕に突然話しかけてきたのは同じクラスの合田(ごうだ)だった。  「まあ、ちょっと。…合田は何してんの?」  会話がそれだけで終わるのも愛想が悪いと思ったので、合田にも質問を返した。  「俺か?俺は色塗りだ。演劇部も文化祭気合い入れてるからよ。舞台芸術にもこだわってんだよ。ベニヤ板にペンキで色塗って。俺は裏方だから舞台は出ないけど、良い文化祭にしたいしな。」  合田は僕が聞くことを待っていたように意気揚々と答えてくれる。僕は「ふ~ん。」とだけリアクションをして、「頑張って。」と社交辞令で発破をかけておく。  僕は階段を降りて、昇降口から校舎を出た。昇降口から自転車置き場がある方向に行こうと思うと、さっき歩いた道をもう一度戻らなければならない。僕のクラスで自転車通学の人は本当に不幸だと思う。そういう僕は自転車通学だった。不幸だ。  中庭を突っ切る間、器楽室から吹奏楽部の演奏が聞こえてくる。文化祭が近いこともあって、今日は合奏をしているようだった。文化部はどれも文化祭にむけて調整している。僕が自転車に乗って校門を出るまで音は鳴りやまなかった。
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