『ロミオとジュリエット』 2

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『ロミオとジュリエット』 2

 次の日も僕はいつも通りの時間に登校した。僕が登校する時間帯はサッカー部が朝練で学校の周りを走っている。走るサッカー部を自転車で抜き去る。  「まことー、おはよう。」  途中、僕のことを苗字じゃなくて名前で呼ぶ声が聞こえた。僕のことを名前で呼ぶのは学校では数えるほどしかいない。その中でサッカー部といえば、清水泰成(しみずたいせい)、その人だった。自転車を漕ぐことを止めて、一瞬振り返る。清水がこっちを見て手を振っているのが分かった。返事をする代わりに片手を挙げて挨拶をすます。僕は前を向いて自転車を漕ぎ始めると、清水もランニングに戻っていった。  清水は小学校の頃からの幼馴染だ。名前で呼ばれるからといって仲が良いわけではない。休み時間では大して話さないし、話すのなんて授業で同じグループになった時くらい。僕はただのクラスメイトと変わらないと思っているが、向こうからは友達判定らしい。関わった人間全員が友達みたいな奴だ。別に嫌ってはいないし、なんとなく付かず離れずの距離を保っている。  自転車置き場に自転車を止めて教室までの道のりはいつも通り、目的の教室を目の前にして下駄箱を通過するために遠回りをする。教室に着くころには多少ぐったりして、今から学校が始まると思うと倦怠感をドッと感じる。自分の席についてカバンに入れられた教科書を机に移す。教室最後方の廊下に面する僕の席からは教室を一望できる。教室にはまだ過半数も人が集まっていない。清水みたいに朝練をしている奴や磯田さんみたいに委員の仕事をやるために早く登校する人、単純に始業時間ギリギリを攻める挑戦者もいる。僕は遅刻ギリギリで校門から教室までの長いルートを走るのは嫌なので、始業10分前には席に着く。かといって、その10分を有効活用することはなく、ただただ机に顔を伏せる。まだ何もしていないのに疲れた。  「進藤くん、おはよう。」  僕は声のした廊下の方を向いて顔を上げる。顔を伏せて寝てますアピールをしている僕にわざわざ挨拶をしてきたのは磯田さんだった。僕にわざわざ挨拶をしてくる人なんて清水か担任の先生くらいだと思ってた。  「ああ、おはよう、磯田さん。」  挨拶を返すと磯田さんは何か用があったわけでもないらしく、じょうろをもって教室の前の扉まで歩いていった。いつもは落ち着いた雰囲気の磯田さんがどことなく嬉しそうで僕にはそれがちょっぴり恐ろしく思えた。  委員長の磯田さんは人数の都合上、欠番となった委員まで兼任している。植物委員もその一つだ。教室にある花に水を与え、担当の花壇に水をやる。仕事内容は大変そうだが、実際のところ花壇は事務員さんが定期的に水やりをする。教室の花さえ世話すれば問題ない楽な委員なのだ。しかも、僕のクラスで育てている植物は月一で水を与えていればいい。朝の無駄な時間を過ごす僕にとっては絶好のアタリ委員だった。人数の問題で専任になれなかったのが悔やまれる。
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