『ロミオとジュリエット』 3

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 そのから数分、事情聴取が続いた。「見てないの?」だとか、「持ってないの?」だとかいろいろと角度を変えて質問をされたが、僕の解答は一貫して「NO。」だった。  僕がトイレに一時離脱してから磯田さんの所に帰ってみると、磯田さんはまだ悩んでいる様子だった。そもそも、昼には場合によっては弁償もする、と言っていた磯田さんがどうしてこんなに本を探しているのだろか?弁償するのが嫌だというのは分かるが、見つからないのだからどうしようもないと思うが。僕は磯田さんに尋ねることにした。  「もうどこにあるか検討もつかないんだし、諦めたら?弁償するったって、本一冊の値段もたかが知れてるでしょ?」  「ああ、進藤くんには説明していなかったわね。今回の問題はそう簡単にいきそうにないのよ。もしかしたら、進藤くんにまで迷惑をかけてしまうかも。」  「え、どういうこと?」  それから、磯田さんに事情を説明してもらった。  図書室で借りた本を紛失して弁償すること自体は珍しいことでもないらしい。年に5,6件くらいあるそうだ。本を紛失した場合は、本の定価での金額を学校に支払う、または、同じ本を用意し学校に献上するのどちらかで解決する。本の返却自体はそれだ済むのだそうだが、本を紛失してしまったという問題は別で処理されるらしい。管理の重要性、責任の自覚、金銭面などのへ理解など保護者まで呼び出されて先生から説教をくらう。最後に本の紛失に対して反省の意を述べさせられて終了になる。  その話を聞いた時点では僕には関わりのない話に聞こえたが、磯田さんはその話を終えた後に「でも今回は加えてちょっとした問題もあって、」と不吉な言葉で話をつづけた。  この本の紛失事件は学生証の本貸し出し記録をもって処理されるらしい。つまり、今回は本を借りるのに使った僕の学生証が対象になる。罰せられるのは僕、ということだ。もちろん、磯田さんはそんなことを望んでいないので本を紛失したのは私だと名乗り上げるつもりだったのだそうだが、そこで問題が起きた。磯田さんは普段から優等生であるから、本の貸し出しなんかはきっちり把握して貸し出しを行っている。ただし、今回は突然任された文化祭実行委員の仕事で、突如『ロミオとジュリエット』を貸し出しすることになった。つまり、磯田さんは誰か代わりの人に本を貸し出してもらうことは今回が初めてだった。学校のことに詳しい磯田さんも自分には関係ないと思っていた校則までは把握していなかったようだ。僕たちが通う学校では「他人の学生証を使って本を借りることは禁止とする。また、同様に他人に学生証を貸すことも禁止とする。」と決められている。  ここまで聞いて僕は事の重大さをようやく理解した。失くした本を返却することは難しくない、最悪、同等の金額を支払えばいい。ただ、呼び出されて説教をされる方に問題がある。今回はどう立ち回っても、僕は怒られる側だ。  磯田さんが何も言わず、僕が本を失くしたことにするのはもちろん。磯田さんが自白をしても、僕は「他人に学生証を貸すことを禁止とする。」を破ったとして説教をされるのだろう。  説明を終えた磯田さんは申し訳なさそうな顔で「……どうしよう?」と聞き終えた僕の顔色を窺った。その時の僕は苦笑いをすることしか出来なかった。  
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