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『ロミオとジュリエット』 4
犯人捜しのために容疑者と犯行動機を絞ることから始めた。
まず、容疑者はその時学校にいた全員とはいえ、犯行時間の短さから本を盗める人は限られている。別校舎や校庭にいた人には到底不可能だ。せいぜい僕のクラスのある階から上下一階分が限度だろう。
犯行動機は磯田さんにないとすれば、やっぱり本自体に目的があったのか。本を読むことじゃなくて、本を盗ることに意味があったのかもしれない。つまり、『ロミオとジュリエット』が磯田さんの元にあっては困るということだ。
「磯田さんが『ロミオとジュリエット』を持っていて困る人に心当たりはない?」
「そんな人いないと思うけれど、私から本を盗んだところでお話の内容は知っているもの。それに、私が『ロミオとジュリエット』を持っていることを知っているのだって進藤くんと宮内さんくらいよ。私が『ロミオとジュリエット』を読み直そうと思ったのもあの日に劇目が決まった後だしね。」
宮内さんって……図書委員の子か。
「となると、その場で磯田さんの机に『ロミオとジュリエット』が置いてあるのを見てとっさに盗んだことになる。」
「まあ、そうね。それにしても進藤くん、探偵らしくなってきたわね。」
くだらない冗談で茶化してくる磯田さんにイラっときたが、大人の対応で返さなくては。……無視しよう。
ガラガラッ。
教室の教卓側の扉が開く。
「おう進藤、いたのか。委員長も。」
合田だ。
「委員長は分かるけど、進藤は今日も居残りか~。ん?あー、文化祭実行委員か、それで昨日も。お疲れ様だな。進藤はともかく委員長は他にもいろいろと頑張ってもらってるし、手伝えることがあったら何でも言ってくれよ。いい文化祭にしたいもんな。俺は忘れ物を取りに来ただけだから気にせず話を続けてくれていいぞ。」
よくしゃべる奴だな。軽くディスられたのは後々やり返すとして、嫌な場面を見られたな。僕の席からは見事に死角だったから合田の存在に気が付かなかった。磯田さんと一つの机をはさんで二人きりの話なんて、噂でもされたらたまったもんじゃない。人の浮ついた話し合いに僕が登場させられるなんて御免だ。
合田は机の中から目的の教科書を探した。「あった。」と言うと、机から英語の教科書を取り出した。そういえば、明日はグループ発表か。授業中に分けられたグループで各担当箇所をまとめて発表しなければならない。
「これが無いと明日ヤバいからな。といっても、まだ発表の原稿できてねーんだけど。」
合田は笑って僕たちの方を見る。気にして欲しいのか、気にしないで欲しいのか。合田はそれを持って入ってきた扉から出ていこうとした。
「合田くんは今日も演劇部で色塗り?」
話しかけるなよ。
磯田さんに呼び止められた合田は嬉しそうにこっちに駆け寄ってくる。
「そうなんだよ、委員長。ひたすら色塗りばっかでよ。でも、今日中には終わりそうなんだ。そしたら乾かして終了。そしたら、とうとう衣装作りに入れんだ。」
「そう、それは良かったわね。合田くんは裁縫好きね。」
磯田さんは犬と戯れるかのように合田の相手をする。僕が「それなら、色塗り急がなくていいの?」なんて聞いても、合田は「いいの、いいの。」と空返事をする。磯田さんはクラス委員長なだけあってクラスメイト全員と仲が良い。僕も嫌いってことはない。
「昨日、磯田さんも合田と会ってたんだ。にしても、よく話すね。」
僕は嫌味で口をはさむ。
「おう、進藤と会った後すぐな。色塗りでペンキを乾かすためにずっと廊下でやってたからな。」
合田から返事が返ってくる。磯田さんに言ったつもりだったんだけどな。
「……ずっと廊下にいたのか?」
合田がいたのは僕の教室がある階の反対側の端だ。
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