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祖父
私は祖父が嫌いでした。
祖父はとても厳しく、真面目な人です。
国鉄、という今はない会社で、とても長い間働いていました。天皇陛下から、長い名前の褒賞も頂いた事もあるそうです。
そんな祖父は、自分にだけでなく、周りにもそうであるべきと押し付けていました。
私に習字教室へ通うように強制させたのも祖父です。まだ鉛筆もろくに握れない、園児にです。
やめたいと何度言っても、聞き入れてもらえませんでした。
しかし、その習字教室よりも印象に残っている出来事があります。
それは私が小学二年生の時です。離れに住んでいた祖父に呼ばれ、会いに行くと、気難しい顔でずっしりとソファに座っていました。
体が大きかったわけではありません。むしろ小柄な方だったと思います。それなのに、ずっしりとしか言いようのない座り方でした。
「××は将来、なにになりたいんだ?」
隣に座った私に、祖父はこう問いかけてきました。
当時野球にハマっており、クラブチームにも入っていた私は、もちろんこう答えます。
「プロ野球選手になりたい!」
すると祖父は顔色も変えずに、ナイフで削られた短い鉛筆と、裏が真っ白なチラシを持ってきました。
「プロ野球選手なんて簡単になれるもんじゃない。野球は趣味でもできる。〇〇って会社があってな、そこは野球部もある。〇〇だ。書きなさい」
昔のことなので、少し違うかもしれませんが、だいたいはあってます。
有無を言わさない声に否定されて、私は泣き出しました。
まだ小学二年生です。夢くらい見させてくれてもいいじゃないか、今でもそう思います。
しかし、言い返せるはずもなく、チラシの裏に弱々しく〇〇と書きました。泣きながら書いた字は、習字教室に通っている子の字ではありませんでした。
そんな祖父が、嫌いでした。
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