一.路地裏の古書店

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一.路地裏の古書店

家の最寄り駅から電車で一時間、元気盛りの五歳の弟を連れて辿り着くにはそれなりの苦労はあったが、目的地である石蔵坂駅を降りて西側へ数分も歩くと、迷路のような狭い路地の走る住宅街に入り、 「あぁ!?ネコだ!!すごいいっぱいいる!! ねぇちゃん早く!こっちにもいた!! ニャー!ニャー!!」 「ちょっと、急に走らないの!タクト! って……うわぁ、ほんとに石蔵坂って、ウワサ通りの猫まつりなんだなぁ。 あは、面白い看板、『ネコ注意』だって」 異常なまでのネコ好きの弟に、マンション事情で家では飼えないネコと触れ合わせてあげようと、野良ネコのいっぱいいる地域をネットで探し回り、都会の中に古い街並みを残した石蔵坂と呼ばれる辺りがそれっぽい、ということで来てみたが、確かに探し回る間でも無くそこかしこにネコがおわしている。 とは言え、 「ニャー!待ってよぉ!ネコネコ!!ほらほら!!」 百均で買ってきたネコじゃらしグッズを振り回しながら大声で追い回してくるテンションの高い人間の子供に、ネコたちは迷惑そうに狭い物陰へと身を潜めてしまい、せっかくの遠出も徒労に終わりそうな雲行きとなってきた。 「そんな勢いで行ったらネコちゃんたちだってびっくりするでしょう? もっとそーっと……って、聞いてないな、こりゃ……。 勝手にごはんあげたら怒られそうだと思って持って来なかったけど、やっぱり何か食べ物あげないとなついてくれないのかなぁ」 ネコを追って人の家の敷地に入りそうになる弟を引っ張りながら、どうしようかとため息をついていると、思い通りにならず早くも退屈してきたのか、 「全然さわれないじゃん! ねぇちゃん、のどかわいた!」 とタクトが振り返った。
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