三原貴大には二つの顔がある

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三原貴大には二つの顔がある

 甲府駅前、ビルの二階にある喫茶≪かかし≫にいた。窓際の席からは駅前の広場がよく見える。  甲斐の虎の異名を持つ武田信玄公の像と、水晶が散りばめられた噴水塔が甲府駅南口のシンボルだった。今も数人の観光客がそれらの前で写真を撮っていた。バス乗り場やタクシーが行き交い、足早に通り過ぎる人々の姿が上から見渡せる。  三原貴大は、数分前から駅前をうろうろしている少女の姿を目で追っていた。紺のワンピースにヒールの高い靴を履いて、歩くたびにポニーテールが揺れる。  この店の前を通るのはこれで五回か六回目だろう。さっきは駅方面へ歩いて行ったが、今度は反対側の平和通りの方へ歩いていく。  改めて、女子高生という存在は実におもしろい生き物だと感じていた。いや、おもしろいとはちょっと違うかな。そもそも女は突然気分を変える魔物のよう。男にとってその不可解さは計り知れない。その予備軍の女子高生はさしずめ、森に住む小動物かもしれない。ひょっこり見せたその顔はかわいらしいが、必要以上に近づくとその顔が豹変する。だから女子高生は、晴れ時々狂暴。それがわかっていても愚かな男は妖艶な女に近づく。  現在の時間は12時10分。その少女は、有沢理香。貴大が待っている相手だった。  駅前までは辿りついたが、その待ち合わせの店が二階にあることは気づいていないようだ。詰めが甘い証拠。まるで算数の、かっこの中から計算していくのを忘れている小学生のようだった。  このままずっと何回往復するのか観察してみたい衝動にかられている。しかし、こちらも腹が減ったからそろそろ助け舟を出そう。電話でメッセージを送った。  下にいる理香が立ち止まった。携帯を見ている。 《あなたの目の前です。その階段を上がってきてください》   立ち止まった理香が、それを読んで辺りをきょろきょろし始めた。目の前のビルの店舗の横に目を止めた。やっと≪かかし≫という看板と二階へ上がる階段を見つけた様子。  姿が見えなくなったから、こっちへ上がってきているんだろう。  店内に現れた理香はサーバーに案内されてこっちへやって来る。  貴大は約束の時間に遅れ、焦り顔の理香を見て突然、悪戯心が沸き起こった。かけていた黒縁のめがねを外す。さらに最近髪が長くなり、邪魔だったから後ろで結わえていたゴムも外した。横に追いやっていた前髪も手櫛で整える。ザンバラ毛の男のできあがり! これで理香がすぐにわかるかどうかの観察力を図ろうという思惑だ。  JKは小動物。その牙をむく前に首根っこを押さえておけば屈服させることができる。そんなおもしろアイディアに貴大はワクワクしていた。  そんな罠に理香ははまるだろうか。
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