鬼監督、いや、寮監督の三原

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鬼監督、いや、寮監督の三原

 三原は、理香を自宅ホテルの部屋へ連れていった時のことを思い出していた。  理香が選んだ映画を二人、ソファに座って見ていた。これはずっと昔、アニメーションで見たことがあった。ライオンや様々な動物が出てくる。実写版でここまでリアルにできる今のテクノロジーに感嘆していた。  そのうちに三原は、そのストーリーをおうよりも、シーンの一つ一つのどこまでがリアルな動物で、どの場所にコンピューターの操作が入っているかを見極めようとしていた。  最後の、高い丘からライオンの子供を次期王として抱き上げるシーンにはじっと目をこらし、不自然さがないかどうかをチェックすることに没頭していた。  ふと、隣にいる理香の体温が上がったことが感じられた。さらにグスリとやり、鼻に手をあてている。三原は、そういう女性の動作には敏感だった。その気配を感じ取り、全身が粟立った。三原の意識はもう、映画のシーンから隣の存在に移っていた。  まさか、まさか、こんなシーンで理香が泣こうとしているのか。どこにそんな悲しい秘密が隠されていたのか。不覚だった。そんなことに動揺している三原はおそるおそる理香を見た。予想通り理香は涙をいっぱい目にためていた。  いけない。そこから離れた方がいい。頭の中にそんな警鐘が鳴らされていた。  ぱっと飛び退くように立ち上がったから理香が驚いた目で見上げていた。
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