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そもそも、もうとっくに新歓の時期は過ぎているのに、龍大が何故こんなに剣道部からしつこく勧誘されていたのかというと。
必修の体育で種目を選択する際、聖が「剣道やってみたい」と言い出したのが発端だった。
彼らが通う某大学の体育は、そこそこいろんな種目の中から好きな種目を選んで受講することができる。
聖は、父親からも多少の護身術やら何やら、龍大からも柔道やら空手やらを、遊びながら少し教えてもらったりしていたけれども、剣道はやったことがなかったから、単なる好奇心でやってみたいと思ったのだ。
一方の龍大は、一通りの武術はきっちり身体に叩き込まれているわけで、当然剣道も有段者ばりの腕前があるらしい。
但し、正式なそういう段位獲得のための試験やら何やらは受けたことがないので、正確にはどの程度の力量があるのかはわからないらしいのだけれども。
龍大は、中学でも高校でも部活はめんどくさいということで一切やっていなかった。
だから、段位というものや、いわゆる県大会だの全国大会だのとかいう表彰台とは全く無縁でこれまでやってきた。
それは剣道に限らず、柔道や空手やその他の格闘技も同様だ。
宇賀神会の腕の立つ者たちから厳しく指導されてきたというだけで、その結果どのレベルに自分があるのか、ということには特に興味がなかったらしい。
ただ、誰よりも強くなって、大事なひと――つまり聖のことだが――を守れるようになりたい、そのことだけしか考えていなかったからだ。
そんなわけで、自分がどの程度の力量があるのかまるでわかっていなかった龍大は、体育の授業のときに、剣道部の一年生をこてんぱんにやっつけてしまったのだ。
しかも相手はどうやら、高校時代にインターハイに出たとか出ないとかのかなりきらびやかな成績を持っているような輩で。
剣道部の先輩たちが、その話を聞いて色めきたってしまったのは仕方ないのではないだろうか。
どこにも知られていない、無名の猛者がいる、ということで。
で、連日の勧誘という今に至ったのだ。
「しょーがねぇから、付き添いで俺も一緒にやってやるから」
聖がそう言うと、ブスッと不貞腐れた顔をしていた龍大は、途端にヘラヘラと顔を崩した。
「聖が一緒なら」
その脇腹を、聖は肘でつつく。
「あと、ほら、先輩にちゃんと謝れって」
操り人形のように、カクリと龍大は腰を折り曲げた。
「スンマセンでしたっ」
こうして、龍大と聖は、一時的に剣道部に所属することになったのだった。
その日のうちに歓迎会を開催するから、と言われたが、さすがに怪我をした立花の病院に付き添ったりなんだりもあるし、正式に入部するわけでもないし…とそこは丁重にお断りした二人だ。
結局、立花は骨折まではしておらず、ただの打撲で、二週間もすれば完治するとのことだった。
龍大は、だから、この週末にあるという練習試合だけ助っ人参加すればいいとのことで、今週いっぱい練習にも参加することになった。
食堂での龍大のキレ具合にビビったらしい先輩たちに懇願され、聖は龍大の専属マネージャーみたいな立場で、その練習に付き合うことになり。
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