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瑛太の運転で、父の赴任先へ向かう。
病院に着いた途端、再び体が震えるのが分かった。
そんな私に気づいたのか、瑛太が私の手をぎゅっと握ってくれた。私がその手を握り返し瑛太を見上げると、瑛太は声もなく頷いた。
私は大きな深呼吸をしてから、母と瑛太の三人で院内に入って行った。
待合室では、遅い時間にも関わらず、父の部下の野村さんが待ってくれていた。
病室に行く間に、倒れた時の父の様子を教えてもらった。
数日前から体調が悪かったこと、
週末は自宅に帰る予定だったこと、
最近、疲れが取れないとこぼしていたことなど。
取り引き先との厄介な電話を切った直後、机に突っ伏して動かなくて、最初は冗談かと思ったと野村さんは言う。
仕事熱心な父のことだ、きっと無理していたに違いないだろう。
そして、父の病室に案内され入室すると、ベッドに力なく横たわる父の姿が…。
父は、こんな顔だっただろうか?
血の気が失せた青白い顔は、思った以上に老けて見えて、その姿は父じゃないような気がした。
たくさんの管を繋がれた父を見た瞬間、私の喉がひゅーっと妙な音を立てた。
「和幸!」
「お父さん!」
父を呼ぶ私達に、担当看護師さんが今は容態が落ち着いていることを教えてくれた。
詳しくは、後ほど担当医師から説明があるとも…。
野村さんには、お礼を言って帰ってもらい、瑛太にも帰るように言ったのだけど、週末だから大丈夫だと言って譲らなかった。
ありがとう瑛太…
あなたの優しさが心にしみた。
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