あなたがいてくれたら

3/7
5479人が本棚に入れています
本棚に追加
/145ページ
 瑛太の運転で、父の赴任先へ向かう。 病院に着いた途端、再び体が震えるのが分かった。 そんな私に気づいたのか、瑛太が私の手をぎゅっと握ってくれた。私がその手を握り返し瑛太を見上げると、瑛太は声もなく頷いた。 私は大きな深呼吸をしてから、母と瑛太の三人で院内に入って行った。  待合室では、遅い時間にも関わらず、父の部下の野村さんが待ってくれていた。 病室に行く間に、倒れた時の父の様子を教えてもらった。 数日前から体調が悪かったこと、 週末は自宅に帰る予定だったこと、 最近、疲れが取れないとこぼしていたことなど。 取り引き先との厄介な電話を切った直後、机に突っ伏して動かなくて、最初は冗談かと思ったと野村さんは言う。 仕事熱心な父のことだ、きっと無理していたに違いないだろう。  そして、父の病室に案内され入室すると、ベッドに力なく横たわる父の姿が…。 父は、こんな顔だっただろうか? 血の気が失せた青白い顔は、思った以上に老けて見えて、その姿は父じゃないような気がした。 たくさんの管を繋がれた父を見た瞬間、私の喉がひゅーっと妙な音を立てた。 「和幸!」 「お父さん!」 父を呼ぶ私達に、担当看護師さんが今は容態が落ち着いていることを教えてくれた。 詳しくは、後ほど担当医師から説明があるとも…。  野村さんには、お礼を言って帰ってもらい、瑛太にも帰るように言ったのだけど、週末だから大丈夫だと言って譲らなかった。 ありがとう瑛太… あなたの優しさが心にしみた。
/145ページ

最初のコメントを投稿しよう!