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動き始めた時間
日曜日の夕方、父と母を残して私たちは帰路についた。
行きの重苦しい空気が嘘のように、今は寧ろ清々しい気持ちすら感じている。
それはもちろん、父が快方に向かっているからだ。
私達が帰る前、父はベッド上で身体を起こして、瑛太に話しかけていた。
「瑛太くん、ありがとう。みのりのことは頼んだよ。」
花嫁の父の挨拶みたいだなと、自分で言って笑っていた。
もちろん私は赤面したけど、瑛太は普通だったな。
夕陽が眩しい車の中で、私は運転中の瑛太の横顔を見ている。
サングラスをしている瑛太の表情は読み取れないけれど、その姿はまるで映画俳優みたいに素敵で、ついつい見とれてしまった。
反則、反則、こんなにカッコいいなんて!
はぁ〜っ!
もう少し瑛太が普通だったら良かったのに…。
ふいに瑛太が、こっちを向いた。
「眠かったら、寝ていいぞ。」
「大丈夫!昨夜は眠れたし、それに瑛太に悪いもん、一人で運転させてごめんね。」
「お前、ペーパーだからな。
俺もまだ死にたくねーよ、気にすんな。
なんだかんだで疲れてるはずだ、寝てろ。」
これが、瑛太の優しさだ。
口は悪いけど本当は優しい。
口先だけの優しさじゃない、本物の優しさだ。
あなたの隣は、
いつも陽だまりのように暖かい。
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