5478人が本棚に入れています
本棚に追加
就職も決まったある日。
親父から聞いたのか、アメリカ行きを承諾すべきかどうか悩む俺に、みのりの父親の和幸おじさんが言った。
『一度、ここ《日本》を離れて冷静になれ、
自分を見失うな。
アメリカで自分を磨いて、大きくなって帰って来い!
そこからが瑛太くんの本当のスタートだ。』
と背中を押してくれた。
俺は冷水を浴びせられたように、
今までの自分自身の不甲斐なさに気づいた。
大事なものから目を背けて、大切な人たちを失望させてばかりの毎日だった。
俺は和幸おじさんに誓った。
『俺の本当にやるべき事、本当に大切なものを見つけたら、日本に帰って来ます。』と。
俺はアメリカで必死に頑張った。
バカにされても諦めたら終わりだと思い、寝る間を惜しんで本を読み、語学を学び、見聞を広める努力をした。
やれる事は全部やった。
結果、アメリカ本社で実績を残せた俺は、日本支社で経営に携わる部署へ配属される辞令を受けた。
やっと日本に帰って来たんだ。
今なら、みのりを幸せにできる自信は十分にある。仕事だってアメリカだろうが日本だろうが、同期の誰よりも結果を残せるはずだという自負はある。
もう、あの頃の思いは繰り返したくない。
俺は必ず、みのりを俺のものにする。しかし、あいつは鈍いから心配だ。
あの頃の可愛かったみのりは、今や母親を凌ぐぐらいに美しい女性になっていた。
つい見とれてしまうことも、度々あった。
無自覚に人を煽って、翻弄してしまうところもタチが悪い。
あの課長も、きっと狙ってるに違いない。
どれだけライバルがいるのか知らないが、これ以上のんびりしてはいられない。
俺は心に決めた。
最初のコメントを投稿しよう!