亀裂

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「珍しいね、こんなとこで会うの初めてだ。」 「ええ、こんなとこで食べるの初めてです。」 と言って、乾いた笑いの私。 「平岡さん、泣いた?」 「わ、分かりますか?」 「メイクが違うから? いや、他の人は分からないかも? 俺は分かる、いつも平岡さんを見てるから。」 と言って、にっこり笑う課長。 あぁ、この人って意外と腹黒かも。 「課長、朝から口説かないで下さい。」 「えっ、気づいてた? 平岡さん、鈍いからわからないかと。」 「バカにしてるんですか?」 その後、課長はあり得ないぐらいの変顔をした! 何なの?この人!ぶ、ぶぶーっ!おかしい。 二人で大笑いした。 「やっと、笑ったね。」 課長、私はそんなに沈んでたんですか? 「彼氏と喧嘩したのか? こんな良い女を泣かせる奴は、けしからん奴だね。そんなに好きな相手なんだ、幼馴染み?」 「私、苦しくて…。好き過ぎるんですかね? 彼無しじゃダメだって思ったのに、今は顔も見たくないって。 なのに、考えるのは彼のことばかりで。」 「はぁ、羨ましい話しだ、妬けるね。」 「課長、茶化さないで下さいよ。」 「いや、ほんとに。 平岡さん、男は彼だけじゃない。 だけど、彼しかダメなんだろ? じゃあ、諦めるしかないよ、君も俺も。 俺は君を諦めて、君は彼から逃げることを諦めるしかないだろ? だって、彼しかいないんだから仕方ない。 むやみに、他の男を翻弄しちゃダメだよ。」 そう言って笑う課長に、さっきの腹黒さは見えない。 課長は、大人だな。 と思ったら、 「ダメだったら、俺んとこにおいで、 俺なら、君のために腕を広げて待ってるよ。」 「もう、課長っ!」 私は課長を横目で睨んで、そして笑った。 なんだかんだと、石田課長と話しているうちに、気持ちが楽になったような気がしてきた。
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